第五話~決心する姉~

13/39
前へ
/200ページ
次へ
「手にした者に強大な力を授けると同時に、その人の体を乗っ取って見境なく周囲に危害を及ぼす剣。どんな剣や盾も魔剣の前では何の障害にもならない。そしてそれを壊すことができるのは、この世に数振だけ存在したとされる聖剣だけなんだ」 「どこかの書物に書かれていそうな話ね。でも、ただ正義のためにそれを求めてるわけじゃない。だよね? もしそうなら盗賊をして、人に危害を加えてる時点で本末転倒」 「……悪いことをしたとは思ってる」 「今は謝罪を聞きたいわけじゃない」  マリンはコハクの言葉をピシャリと跳ね退けた。 「どうしてその聖剣とやらを求めてるの」 「……」  嫌な記憶だ。思い出したくないのに、それでも少し考えただけで脳裏に甦り肌に感じる。目の前で血飛沫を吹きあげて床に倒れた両親の体。倒れたランタンからこぼれた油が引火し燃え出すかつての家。そしてそのすべての元凶である、銀色に輝く剣を掲げた鎧姿の剣士。  だが。未遂とはいえ村を襲撃した三人の内一人を、他が捕まったままだからとはいえ縛りもせずこうして話をさせている。これが甘さだと考えるならば、もしかすると同情を誘いこちらにとって都合のいい展開へ好転させることができるかもしれない。  当時の記憶を喉から出すことに嫌悪感を覚えつつも抑え込み、もう一度水を飲んでからポツポツと話し出す。 「これは、一年前のことだけど――」  * * *  小さな小さな、これ以上ないほど小さな集落があった。家屋の数はたったの七つ。その内二つは家畜小屋と物置で、実質人が住んでいるのは五つのみ。住人は九人だけで、ただしそれだけに住人同士の仲はいい。西の空に白い雲を覗かせるだけで真上は青天。燦々と日差しが集落の建物や放牧された家畜達に作物が気持ちよさそうにしている中、茶髪のセミショートヘアーの少女は額に汗を浮かべて鋭い表情をしていた。  視線の先にあるのは五十刃離れた場所にある、拳程度の小さな蕪(かぶ)。日差しと集中により流れる汗が肌をなぞり、神経を刺激するが意識は蕪にだけ注がれ余計な情報は入ってこない。突き出された左腕は撓(しな)る弧状の木を支え、引かれた右腕は羽を握って放さない。  しかし、横合いから吹いていたそよ風が止み、外部の力が立ち消えると少女は瞬間に右手を開き羽を手放した。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加