第五話~決心する姉~

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 少女が落ち着くまで頭を撫で、やがて二人で男性の元へ行く。顔を見せたくないのか俯いたままの女の子を見下ろして男性は微笑み、 「うまくいかなかったのかい?」 「と思うでしょ? 当てたのよこの子」  誇らしげに、そして心底嬉しそうに話す女性の言葉に男性は目を見張る。 「本当かい? それはすごいな。やっぱりコハクはお母さんの娘だな」  男性に頭を撫でられふて腐れながらもどことなく嬉しそうに口元を緩めるのは子供故の本心を隠せないでいるからだろう。 「筋力では勝てても、コハクにはお父さんも敵わないな」 「当たり前だよ、コハクはお母さんの娘だもん!」  嬉しそうに胸を張り威張るその仕草がどうしようもなく可愛くて女性は少女を抱きしめる。 「わ、お母さん?」 「何でもないわよー♪」  戦士ではない母娘の顔を見て男性はクスリと微笑み先を歩き出す。  家に戻り、談笑をしながらの三人での食事を終えて少女は弓と矢筒を手に取り、家を飛び出した。 「コハク?」  元気なのはいつものことだが食後に走り出した娘に驚き男性は慌てて外まで出て声をかける。 「お母さんが出るまでもうちょっとだけ練習してくる!」 「……やれやれ」  呆れ顔で、しかし頬を緩ませながら家の中に引っ込み、食事で使用した皿などを台所で洗い始めながら、まだテーブルでゆっくりしている女性に語りかける。 「あの子は本当にお母さんが大好きだね」 「ありがと。しばらく会えなくなるのよね」  ため息混じりに溢す寂しさを聞くが男性は何も言わない。 「帰って来られるのは半年先かしら。やだなー、コハクに追い抜かれてたら」  冗談混じりに、しかし本気で心配していることは男性にもわかった。 「これからの勤め先で君も精進したらいいさ」 「ん。あなたも、わたしがいないからって他の女にうつつを抜かしたら嫌よ?」 「君より強い女性に出会ったとしても、僕には君以上に魅力的な女性に出会うことはないよ。おや?」  互いの信頼があるからこその軽口を叩く。そこへ、集落の住人の一人である中年の男性がやって来た。  少女は男性が迎えに来るまで弓矢の練習をしていた場所で、再び矢を番えた弦を引いていた。
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