第五話~決心する姉~

16/39
前へ
/200ページ
次へ
 この集落に兵士と呼べる人間は二人。この国においてメジャーな装備である長剣使いにして集落の兵長をしている中年の女性だ。実力そのものは決して強いとは言えないが、他者の実力や隠れた才を見出し、部下達を強者へと導くことに長けていた。  もう一人は先程少女とその父親と共に語らい食事をしていた女性。彼女はマイナー武器である弓を使う。最初は長剣を手に訓練を重ねていたのだが、相手の動向を見極め素早く先制できる感性と、平均女性よりも下半身が弱いことをから兵長に弓を勧められたのが発端だった。結果として兵長の睨んだ通り彼女は弓士としてメキメキ上達し、新たに別の武器を扱いだしたことによって他の同輩には後れを取ったものの、集落から遠い街の警備隊に就任するに至ったのである。  娘である少女はそんな母親に感化され、兵長が接近戦に向いているという中で強情に弓を選び、必死に特訓した。その結果、母親をも超える速度で成長を続けている。まだ兵士ですらないが、母親が村を出ていけば兵長の下で兵士として訓練を受けることになっている。  この集落に何か危機が訪れることはなく、あっても自然による驚異のみで兵士は実質必要とされていない。一人でもいれば十分すぎるということもあり、兵長が預かるこの地で育った兵士達は出稼ぎに出かけていく。  昔は名だたる剣士だったという女性もいるにはいるが、六十を超える歳で剣を握るには少々難しい。  そして今日、弓士として大成しつつある兵長唯一の部下は出立する。  その前にどうしても母親に自身がどれだけ成長したかを見せたい少女は、再び五十刃先の蕪に狙いを定めていた。  蕪の先に置かれた木板は村のはずれに向けられており、たとえ板の先へ飛んでいったとしても誰かに誤射する心配はない。その分矢を拾いに行くのは面倒だがそれも訓練の一つである。 「……」  風がそよぎ少女のセミショートの茶色い髪を靡かせる。陽光に鏃(やじり)が煌めくが反射光は目には入らず眩しくはない。  視線は正面の小さな白い的。だがそのずっと先に動く何かを視界にとらえ、意識がそちらへ向いた。  何もない、ただ野が続くそちらにチラリと視線だけを向けると、何やら背の高い女性がこちらへ歩いてきているのが見える。緑髪を左側頭部で纏め、背中に斜めにして担いだ長い棒のようなものが見える。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加