第五話~決心する姉~

17/39
前へ
/200ページ
次へ
 旅人だろうか。こんな田舎の中の田舎と言ってもいい集落に何の用が?  そんな疑問が脳裏に過った時だった。 「っ!」  突然正面から吹き付けた突風が塵を巻き上げ、少女の目へと叩き込んだのだ。鋭い痛みに少女は思わず目を閉じ、反射的に目を擦ろうと右手を顔に近づける。だがそこで左手に反動を感じ、慌てて無事だった目を開けると、弓の弾性によって弾き飛ばされた矢が素晴らしい速度を持って飛翔していた。  しかしそれは彼女の狙っていた蕪から大きく逸れ、立て掛けられた木板をも飛び越えて野へと飛んでいく。いつもならば回収する手間を考えて溜息を一つ吐くところだが、不幸にもその矢はこちらへ歩いてくる人物へまっすぐ向かっていた。 「危ないっ!」  口から出たのはただそれだけ。矢の速度は凄まじくそれ以上の言葉を言う前に誰かに肉薄する。目が痛むのも忘れて片目が異物を除去するために涙を流し、滲む視界に人が胸に矢を受けて地に伏す光景を少女は疑わなかった。警戒もしていない人間が矢を避けられるはずがない。  自分の不注意で人を殺してしまった。そのことに愕然としかけ、  その人物が、背負っていたはずの棒をいつの間にか両手で握りしめてその半ばで矢を受け止めていたことに唖然とする。  決して太いとは言えないそれで、しかし間違いなく受け止められた矢はポロリと地面に落ちていく。 「あ……」  間抜けにも顎を落として思考と共に固まっていた少女は、ずっと先で誰かが落ちた矢を拾い上げる様を見て我に返り、弓を握って走り出した。木板を跳び越え野を駆け、やがてその何者かが握りしめている棒が棒ではなく、長物であることに気づく。三日月のような刃が先端に取りつけられた重量武器。偃月刀。  緑髪の戦士は必死の顔で走ってくる少女に気づき、武器を背中に戻すと目の前までやって来た少女に矢を差し出した。 「はい。これはあなたのよね?」  無意識にその矢を受け取った少女は再び間の抜けた顔をして固まる。  綺麗な女性だった。革製の胸当てをしているだけの軽装の女性。豊かな胸元に反比例して腹部はほっそりとへこみ、スラリと長い手足は日差しを受けて白く輝いている。緑光を発さんばかりに透き通った緑色の瞳を細め、身長差のある少女の視線に合わせるように腰を折って目線の高さを合わせた。 「お嬢ちゃん?」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加