第五話~決心する姉~

18/39
前へ
/200ページ
次へ
 もう一度声をかけられ、少女はようやくハッとし女性に対して頭を下げる。 「ごめんなさい! 弓の練習をしていたら目にゴミが入って、そしたら矢を間違えてお姉さんの方に飛ばしちゃって!」  必死に弁明する少女。命を奪いかけておいて虫のいい話だが、真実ただの偶然によって招かれた事態でもある。どうにか赦してもらいたいところだったが、しかし女性はそんなことよりもといった具合に首を傾げて言う。 「目にゴミ? ちょっと見せてもらえるかしら?」  頭を下げた状態で頬に両手を添えられ、引かれるがままにゆっくりと顔を上げる。すると女性は少女の顔のすぐそばに自分の顔を下ろしており、少女のブラウンの瞳を覗きこんだ。 「☆△◇♯♭!?」  鼻と鼻が触れ合いそうなほどにすぐそばに綺麗な顔がある。少女は心臓が早鐘のごとく鳴り響き、首から上に血が急上昇して火照るのを感じたが女性はそんな彼女の真意など気づくことなく少女の両目をじっくりと見、あ、と声を上げた。 「これね。ちょっとじっとしててね♪」  女性の声が耳を突き抜け脳髄を溶かしていく。何も考えられずただ言われるがままに動かないでいると、女性の柔らかくも、しかし武器を握り続けたことによって硬くなった指が目元に這ってくる感触を覚え、急所である眼球に近づいてくるにも拘らず、恐怖や嫌悪を覚えるどころか若干の興奮を覚えていた。自分自身知らない感覚に戸惑いながらも胸の高鳴りが心地よく、真剣な面持ちで見つめてくる女性を一心に見つめる。 「よし、とーれた♪」  しばらく瞼の裏を撫でていた指は声と共に離れていく。それに合わせて女性の顔が遠のき、思わず引き留めようとして短く声が漏れた。 「ん? どうしたの?」 「な、なんでもないです」  不思議そうに小首を傾げる女性。慌てて首を横に振り、それから慌ててもう一度頭を下げた。 「ごめんなさい、それと、ゴミを取ってくれてありがとうございます」  健気に謝罪と感謝をする少女を見て女性は微笑み、そっと頭を撫でる。頭を上げるように軽く肩を叩くと、その意を理解して少女が顔を上げ、やや熱っぽくなった視線で見てくる目に肩を竦めて見せる。 「気にしてないわよ、こう見えてお姉さん、強いんだから♪」 「はい……」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加