第五話~決心する姉~

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 軽口を言い合いながら二人はゆっくりとした足取りで目的の家へと辿り着く。少女が軽く戸をノックしてから老人を先に入れ、続いて自分も家の中へ入る。 「わっ」  思わず声を上げてしまうのも無理はない。大きいとは言えない家に、大勢の人間がいたからだ。よく見ればこの集落の人間全員が集まっている。入って来た少女に気づいた彼女の母親は入口へやって来た。 「コハク」 「騎士様が来てるって聞いたんだけど、どこ?」 「そっちのベッドよ。重い鎧を着こんでるからみんなで必死になって運んでね。でもずっと起きないのよ。鎧や兜を脱がそうと思ったんだけど、なぜか外れないし」  まったく困ったわと言わんばかりに頬に手を添える。どんな人なんだろうと子供らしく好奇心を働かせ、家族にも等しい大人達の間を縫って奥へと入る。  そうしてみたのは、ベッドの上で横たわる鎧だった。重厚そうな鎧、頑丈そうな兜。腰に吊るされた長剣。そのすべてが銀色で、窓から差し込まれた光は直接当たっていないにも拘らずそれを吸収して吐き出しているかのように輝いている。  立派な鎧だ。いったいどれほどの価値があるのだろうか。コハクでは到底想像もつかない額に違いない。俗っぽくそんなことを考える者もいただろう。だが少女考えていたのはそんなことではなかった。 (さっきのお姉さんが探してた人だ)  すぐにわかった。全身を覆う銀の鎧。間違いなく目の前で横たわっているこの人に違いない。偶然にしてはできすぎていないだろうかと考えるも、あの女性がこの人物を求めて旅をしていたとすれば、その後を追っていたと考えるならば合点がいく。  この家の持ち主であり医学に通じている中年男性が騎士が腰に帯びた鞘の先が足に引っ掛かり、ベッドからはみ出した柄が下向きになりずり落ちそうになっている銀色の剣に気づく。 (お礼って言ってたから、いい人なのかな)  戻すために手を伸ばした男性が剣の柄を握りしめた時だった。 「え……」  少女は目の前で何が起こったのか理解できなかった。いや、少女だけでなくその場にいる誰しもが理解できなかっただろう。どうして想像できようか。  騎士の鎧が形を失い、液体のようになった鎧が剣を掴んだ彼の腕に纏わりつくなど。
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