第五話~決心する姉~

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「魔剣は誰かの体を乗っ取る時、空に暗雲を出すんだ。それを見て急いで戻ってきてくれたんだって。お姉様も昔、故郷をあの銀の魔剣に潰されてる。カイヤも同じようなものだ」 「なるほど……」  マリンは何かを考えるそぶりを見せ、それからダイチに背中をさすってもらいながら水を飲むコハクを見て言う。 「ということは、あのエメラって人の武器。あれも聖剣の一つなんだ」 「っ!? なんでそれを!?」  驚きのあまり水が気管に入ったのかコハクは咳き込み、落ち着いてからマリンに尋ねる。しかしマリンは小さく肩を竦めて大したことではないと言わんばかりに退屈そうに唇を尖らせ、 「聖剣でしか壊せない魔剣を追ってるのに、もしも聖剣なしで追い詰めてどうするの? 何もできないのに意味はない。つまり、コハクを助けた時には既に聖剣を持ってたってことになる。売ればいくらになるんだろう」  これはコハクに対する当てつけだ。本当にそんなことをする気はさらさらないが、襲われた身とあっては意趣返しくらいはしたくもなる。悔しそうに睨みつけてくるコハクをつまらない物でも見るような目で眺め、それからやや厳しい顔をしてくるダイチを見て短く息を吐いた。 「冗談。さて、これで三人の目的がわかったわけだけど」  コハクの計算違いにも、正面に座して冷たく言い放つ少女の瞳には同情のどの字も感じられない。嫌な記憶を掘り起こしてまで語ったというのに何の意味もなかったようだ。 「兵士だけじゃなく村の皆に危害を加えようとし、恐らくはこのシオン村以外でも似たようなことをしてきた盗賊三人。国に突き出すか、あるいはここで処刑をする、なんてのも、賛辞や感謝を受けこそすれど非難を食らうことはない」 「……」 「わたしとしては、このまま三人を殺すのが最善」  死刑宣告。 「と、言いたいところではあるんだけど」  長い長いため息を吐き出すマリン。膝の上で拳を握りしめ、俯いて死を覚悟したコハクは訝しげに視線を上げる。正面の少女はコハクではなくその少し横を見ていた。半ば諦めつつ横を見ると、何やら渋い顔をして水色の少女をジト目で見つめている黒髪の女の子。 「ダイチが認めてくれなさそう」 「そりゃそうですよ」
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