第五話~決心する姉~

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 何を言うとばかりに黒い少女は言う。 「確かに三人がいろんな人に迷惑をかけて、もしかしたら人を殺してきたのかもしれないです。でも、その理由は……その気持ちがわたしにはわかります。この話をした理由が、同情を誘ってなんとか助かろうとしていたからだとしても」  ばれていた。そのことにコハクは心臓を絞めつけられる思いだったが、正面の少女はそのことに驚いた様子はない。こちらもわかっていたということだ。十二、三歳程度の幼い子供だと、心のどこかで侮っていたせいもありふたりの洞察力には驚きを禁じ得ない。 「この話の真実性は?」  マリンはダイチに尋ねる。この話が嘘であれば同情も何もない。しかしダイチは首を横に振った。 「ずっと抱えてるんですよ。身内を殺された悲しみと、殺した相手への憎しみの炎を。それはずっと消えないんです。目的を果たして灰となるか、誰かが抑えて鎮火してくれない限り……」  苦しそうな顔を見せるダイチ。まるで身に覚えがあるかのような苦渋に満ちた声だった。カイヤと同じか、それよりも幼そうに見えるこんなにも小さな子が自分達と同じものを抱えていた。それももっと前から。そう考えるとコハクは無意識に黒くて長いその髪をそっと撫でていた。 「ありがとうございます。優しいんですねコハクさんは」  一瞬目を丸くするも、嬉しそうに微笑んで言う。 「あ、いや! 別に大した意味はなくて、触り心地よさそうな髪だなと思っただけ!」  慌てて手を放すが、自分でも何をしているのだろうと自問する。優しさを向ける相手は今はエメラとカイヤだけだ。他の誰が悲しそうな顔をしていても同情を向ける気はまったくなかった。そんなことに気を回している余裕などなかったからだ。姉と妹へ向ける愛と、向けられる愛に応える。そして、銀の魔剣を砕く。それらで精一杯だったはずなのに。 「じゃあダイチの言う通り、この人の言うことが全部真実だったとする。でも村に及ぼした危害は無視できるものじゃないと思うけど」 「そうですね。コハクさん」 「うん?」  呼ばれたコハクは素直に返事を返してしまう。 「一つ提案があります。もちろんマリンさんやルビアさんに了承をもらってからになりますが――」  黒い少女はどことなく、子供らしからぬ含みを持たせた、瞳のように底の見えない笑みを浮かべた。
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