第五話~決心する姉~

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   二人からの聴取が終わったコハクは姉と妹が待つ牢へ戻される。外で待機しているから、二人の目が覚めたら呼ぶようにと言われ、素直に頷き、外へ出て行く小さな戦士を見送ってから姉妹を振り返る。自分を含め、今は誰も拘束はされていない。抵抗をしないと信じているのか、あるいは抵抗をされても何の問題もないと思われているのか。武器があっても敵わなかった相手だ、そう見られても仕方がないが……、 (なんだろうなあ。信じてくれてるって、そう思いたくなってる)  胸中の変化はコハクに戸惑いを与えるばかりだ。  互いに身内を失い、互いが互いを支え合い、大事な家族であることを示すために「姉妹」を名乗っている。姉妹以外は敵か、あるいは利用すべき存在。すべては目的を完遂するために。ずっとそう考えていた。  ただ、何故かその考えが鈍る。あの黒い少女が示した提案のせいだろうか。彼女の仲間であるもう一人の幼い少女が呆れ返るほどに甘ったれた考えだったからだろうか。彼女が姉と妹を倒すほどの実力者だからだろうか。何か、同種のものを抱えた存在だったからだろうか。  ぼんやりと、そこまで考えてからコハクはフッと微笑む。 「たぶん、そういうのじゃない」  思い出してしまう。よみがえってくるのだ。かつての記憶が。  温かくて、強くて、優しい母親の記憶が。  あの少女がコハクの母親を想起させる。  似ている。母親どころか、コハクよりもずっと幼いくせに強さを内包した優しさを持っている。どうしてあんなにも小さな子がと思わなくはないが、無条件に等しいまでの状況で信じてしまいたくなるのはそういうことだろう。 「ん……」  もぞりと動く気配。我に返ってコハクが首を動かすと、硬い床で寝ていた親愛なるお姉様がゆっくりと身を起こし、寝起きのように開ききらない目をフルフルと左右に振っている。視線が自分を見つめている妹を捉え、それから首を傾げた。寝起きのエメラの、普段とは違う小動物のような仕草にコハクは胸が苦しくなりながらも衝動を抑えて姉に近づきすぐ前に腰を下ろす。 「おはようございます、お姉様」 「コハク? えっとー……」 「シオン村を襲撃して失敗しました」 「っ!」
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