第五話~決心する姉~

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「シオン村で訓練を取り仕切っているのは、実質的にコハクが怪我をさせた二人だそうです。その二人が訓練に復帰できるまで、三人で代わりを務めるようにと。食事と宿は提供してくれるし、少なくはあるけど、報酬もくれるそうです」 「……?」  エメラは話を聞いてなお、眉を顰める他にない。確かに他の兵士達の訓練に付き合えなくなった兵長達の代理が必要なことは認めるが、あの黒い少女のずば抜けた実力。ともすれば銀の魔剣よりも恐ろしい存在とすら思えるあの少女なら、代理どころかしっかりと務めてしまいそうなものなのだが。それに、失敗に終わったとはいえ村に襲撃をかけようとした者をどうして訓練士に採用しようなどと考えるのだろう。彼女達にとって、こう言っては難だがエメラ達を助ける義理も理由もないはず。妹達が無事で済むのであれば間違いなく喜ばしいことなのだが、エメラにはこの案を提示してきた者の考えがまったく読めなかった。 「コハクにも、どうしてそんなことを言って来たのかはわかりませんでした。でも、悪い話じゃないと思うんです。どうやらあの黒い子、ダイチだったかな。あの子がシオンの剣を持っているみたいです」  コハクの言葉と、ダイチという少女と戦っていた時の記憶が重なる。 「そして、宿として提供してくれるのはその少女のいる家だそうです。訓練に必要だから武器は返してくれると言っていましたし、うまくすれば……」  声を潜めて囁く妹。外に誰かがいるということか。  妹の言わんとすることがわかり、エメラは考え込む。どうすることが最善であるかを。  元々この村へ訪れたのはシオン村に伝わる聖剣を手に入れるため。それさえ果たすことができればこの村に用はない。恐らく怪我をした二人の治癒にはしばらく時間がかかる。それまでずっとこのような田舎で過ごすのは得策とは思えない。 「そうね……」  じっと見つめてくる妹の視線を感じながら、エメラは悩む。姉にすべてを委ねようと、全幅の信頼を寄せて、そして本人も気づいていないだろうがどことなく熱っぽさを内包した瞳を見返し、決める。  今も眠っている下の妹が目を覚ましたら、二人に告げようと決め、見つめてくる妹を悪戯っぽく細めた目で見つめ返し、それからゆっくりと顔を近づける。
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