第五話~決心する姉~

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「んなわけあるか」  即答だった。わかっていた。ルビアは家族を失う苦しさを知っている。そんな不幸を撒き散らす存在を許せるはずがない。 「だから、エメラを失うわけにはいかない。エメラ以上の偃月刀使いは早々見つかるはずもないし、いたとしてもその人が積極的に魔剣破壊をしてくれるとも限らない。これが一つ目の理由」 「二つ目は?」 「彼女達の今後の盗賊行為の抑制」 「? 詳しく話してくれ」  首を傾げるのは当然だ。何せダイチに説明をしてもらうまでマリンにもわからなかったのだから。 「あの三人にとって大事なものは、他二人の存在と魔剣の破壊。それ以外は重要じゃない。だから今回みたいに襲撃をかける。わざわざ殺そうとはしないけど、必要なら躊躇わない。……そこに魔剣との違いがどれ程ある?」 「襲われる身としてはなんの違いもないよなぁ」 「ルビア達が復活したら三人は解放する。でも危険なまま野放しにはできない。だから」 「他の人間にも大事な家族や友人がいて、それを失われる悲しみや怒りは変わらないことを、快く仕事をしてもらいながら知ってもらう。か?」  まさか正確にダイチの考えを見抜かれるとは思わず驚いた顔をするマリンにルビアは鼻を鳴らして笑った。  伊達に故郷を失っているわけではないのだ。もちろんそんなことを誇る気はさらさらないが。 「だがこれには抜けがあるぞ。マリンの言う案に賛成はしたいが、そもそもとして向こうがこちらに好意的で且つ危害を加えないって安全が保証されて初めて成り立つ。だがこちらの安全を考慮すれば間違いなくあいつらは肩身の狭い思いをすることになるし、理想論でしかないんじゃないか?」 「それ、わたしもダイチに指摘した。……ルビアと同じ程度の指摘しかできなかったんだ」 「おい」 「それを解決するのが、ルビア達の家を宿にするってこと」 「は? 牢に入れるわけでもないのになんで――」  言いながら、安全を確保する役割を担う存在の背中が脳裏を過った。ルビアも信頼し、勝利を納めはしたものの、これまで生きてきて最も恐怖を与えてきた、小さな小さな人間が。優しく、おどおどして、しかしいざと言う時は不敵に構える黒い義妹。 「気づいた?」  ルビアに問いかけるマリンの口元はややひきつっている。苦笑いと評しても間違いではない。
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