第五話~決心する姉~

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「え? あ、ああ、なんだ?」 「三人の処遇。どうするの?」 「うん。アタシは二人の案に賛成だ。ただし、あの三人が何かを企んでいる素振りを見せたら、その時はまた変えるが」 「わかった。そろそろエメラとカイヤが目を覚ましてるかもしれないし、わたしは戻るね」 「待ってくれマリン」  退室すべく背を向けた小さな部下を呼び止める。 「どうして三人を助けようと思ったんだ。見ていないとはいえ、アクアも襲われたんだぞ。憎くないのか?」 「腹は立ってる。でも、必要なことだし、あの子達も本当に悪人ってわけじゃないから」  簡潔に答えてマリンは今度こそ出ていった。その返事にルビアが笑っているだろうことを難なく想像しながら。 「……何があったの?」  シオンの剣へと戻ってから出た言葉がそれだった。  ダイチが入り口で顔を真っ赤にしてうずくまっていたのだ。訊ねられた小さな少女は赤面を持ち上げ涙が滲んだ目を向けてくる。眉をひそめてもう一度問おうとして、そこで気づいた。  牢の中から聞こえてくるのだ。ダイチはもちろん、マリンにも早すぎる楽しげな声が。声と言っても言葉のそれではなく、反射的に漏れるそれは、ダイチには刺激が強すぎるらしい。それもそのはずだ。トパズ達と共に入浴することすら拒み、ペリドットの恨めしいほどに蓄えられた胸元の肉の塊に顔を埋められた時も大いに照れていたのだから。  姉がここまで過激でなくて本当によかった。そしてこれからもそうさせはしない。  奇しくも姉のお陰で耐性がついていたらしく、ダイチのように恥ずかしさを覚えるではなくうんざりする。どちらがよいかは判断できないが。  ダイチが背にしている壁を殴りつける。時折姉を殴っていることがここでも功を奏した。  バーン、と木板を震源にして建物の中で盛大に響き渡る。それを境に中から声は聞こえなくなった。 「ちょっと待ってて」  涙ぐむ小動物の頭をさっと撫でてマリンは一足先に牢屋へ入る。すると、想定していた通り、あられもない姿の三人組が格子の向こうで仲良く硬い床に寝ていた。身内以外はさすがに恥ずかしいらしくせっせと身なりを整える一番下と二番目に対し、長女はやって来た水色の少女を見てもゆったりとした動作で直すだけで余裕の笑みは崩さない。
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