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頷き、マリンはもう一度三人を一瞥する。ダイチを警戒した風に長女と末の妹が他二人を庇うような立ち位置に移行しようとして結果として体の大きいエメラが下二人の前に立っている。先程ダイチと戦った恐怖でも思い出しているに違いない。
ただ、茶髪のツインテールの少女だけがエメラとカイヤとは異なり、口元に笑みを浮かべてダイチを見つめていることに少々驚いた。皮肉なそれや馬鹿にしたそれではなく、嫌なものを見る目ではない。むしろ好意的なそれと思える。
唯一見方が違うコハクともう一度話をしてみたい。そんなことを考えながら、マリンは家で待っているであろう双子の姉に顔を見せるために足を動かしてその場を後にした。
「えーっと」
残されたダイチは微笑み三人を見る。花も恥じらう愛らしい笑顔は悪意も敵意も感じさせない。
「それじゃあ、わたし達の家へ案内しますね。マリンさんのことだから釘を刺してると思いますけど」
背を向けてさっさとシオンの剣を出ようとしていたダイチは立ち止まり、身体を半分捻って振り返ると背中に差した模造刀の柄を左手で握りしめ、さっきの可愛い笑顔ではなく意地の悪い笑みを浮かべる。
「逃亡や抵抗なんて、考えたらだめですよ♪」
「はーい♪」
「わかってるって」
「ん」
三者三様の返事に満足げに頷き、再び歩き出す。その背中を見る限り警戒は全くしているようには感じない。無防備に背を晒している今ならば奇襲次第でどうにかなるかもしれない。何せ、危険な人物は間違いなく目の前の少女だけなのだから。
エメラがこっそりとそう考えた時だった。
「あ、そうそう。三人が村の外で待機させておいた馬車は、村で唯一馬を世話しているアルナさんの家で預かってます。ちゃんと大事に世話をしてくれているので大丈夫ですよ。それと、三人の武器はわたしの家に置いてありますから、後でお返ししますね」
「……警戒しないの?」
「え?」
思わず言ってしまったセリフにエメラはしまったと後悔するが、口から出た言葉はもう戻らない。振り返り長い黒髪を回し、器用に後ろ歩きをしながらダイチは首を傾げる。
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