エピローグ

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「そこサボるなー!」 「んー、そうじゃないんだなー♪」 「相手、動き合わせる」  盗賊団襲撃から早四か月。シオン村には兵長の元気な声ではなく、新しく参入した三つの声が、特にその内の二つが響き渡っていた。  元気で活発な声。どことなく妖艶さを混じらせる蠱惑的な声。要所だけを述べる小さな声。シオン村の至る所で各々の仕事をしている村人達も、新たな村の十人の声をシオンの剣の塀の向こうで聞き、明るく笑いながら日々を過ごしている。  茶色いツインテールを垂らした弓使いのコハク。緑色のサイドポニーが印象的な、偃月刀を振り回すエメラ。不動の顔にはめ込まれた藍色の双眸で状況を見定め臨機応変に二つの盾を操るカイヤ。トパズに劣り、ダイチ曰くルビア以下の実力で、ダイチにあっさりと盾を奪われてしまった、などと前振りを付けると聞こえは悪いが、間違いなく彼女達は一流の戦士であり、何よりこの村にはいなかった武器種の使い手である。さらに言えば多くの村を襲撃し、数多の敵を屠って来た本物の実力者。一戦交え、監視役を務めるには十分な逸材だった。  そして、その当の三人はと言えば……。 「わわわわわわ!!」 「あ、ちょっと待って待ってー!」 「……っ」  三人揃ってシオンの剣の中を爆走していた。涙目になりながら、本気で。 「ほらー、わたしの剣が欲しいんですよね? わたしから刀を取り上げたら差し上げるって言ってるじゃないですかー♪」  その背後を真っ黒な少女が追いかけている。長身のエメラどころか、一番背の低いカイヤと同程度の身長の少女。足先まで伸びた長い黒髪に、愛らしい笑顔に存在する黒曜石のように透き通った瞳。だがそれだけではない。何よりも黒いのはそこではない。三人を追いかける少女の笑顔だ。小柄な少女にはやや不釣り合いに見える打刀の模造刀を引っ提げ、地面すれすれに滑走する少女の速度は凄まじく、前方を逃げる三人との距離を確実に埋めつつある。 「来るな来るなー!」  本気で泣き顔になりながらコハクは走る速度が落ちるのを覚悟で上半身を捻って振り返り、弦を引き絞って矢を放つ。狙いは雑だが元々の腕がいいだけに、迫る悪魔に間違いなく飛んでいった。着弾点は額。受ければほぼ確実に脳を貫かれ死に至る。訓練にしてはやりすぎと言えるだろう。だが、彼女達のこれまでの経緯を考えれば、そんな甘いことは言えない。
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