エピローグ

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 そしてそれは今回も同じだった。 「そうそう、そうやって戦ってくれればいいんですよ♪」  悪魔が心底楽しそうに、ドス黒い笑みを浮かべてあっさりと矢を弾いた。引っ提げていた模造刀が、刃(は)のないやや平になっている刀身が正面から矢じりを捉えていた。 「戦わないと聖剣は奪えないですよー」 「ダイチ……奪わせる気……ないっ」  エメラの真横を脱兎のごとく走りながらカイヤが途切れ途切れに文句を言う。 「それはもちろん。わたしの大事な剣ですからね」  対して追いかけている少女は少しも疲れた様子はなく、汗をかくという機能が備わっていないのではと思わせるほど涼しげに走っている。 「エメラさんファイトー」 「コハクー、しっかり狙わないとー」 「カイヤ、もしやられたらあたしが慰めてあげるからねー」 「マリンちゃんその口をわたしのダガーで縫いつけようか?」  一部変な声援が混じるが、休憩をしている他の兵士達は四人の追いかけっこを楽しそうに笑いながら見守っている。  重量武器である偃月刀を担ぐエメラ。迫る鬼よりもおそらくは年下のカイヤ。振り返りながら何度も矢を放つコハク。そんな三人をダイチはついに捉え。  シオン村に絶望を内包した悲鳴が今日も轟いた。  この村で暫く住まわせてもらうことになったエメラ達は、トパズとダイチの案内の下、村を回り、謝罪とお願いをして回った。村に危害を加える気だった三人の話を聞いて村人達は例外なく驚いていたが、村そのものに実害がなかったことでそう怒る者はいなかった。村の大事な仲間を傷つけられたことで、やはり小言の一つくらいは言いたそうだったが、その被害者を身内に持つトパズ達に一緒に頭を下げられてはそうもいかず、肩を落として納得してくれた。  孫娘に怪我を負わされた村長も、兵士の務めとして仕方がないことだと、やはりいい気はしないものの赦し、結果として三人はこの村に認めてもらえることとなった。  正直、罵声の一つどころか石を投げつけられるくらいはあるだろうと覚悟し、妹二人を護るつもりだったエメラは想定外の事実に戸惑う。それがこの村のいいところなのだと、そう知ったのはもう少しこの村で過ごしてからのことになる。
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