エピローグ

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 そしてその日以降、夜も深まり誰もが寝静まった後で起き出し、こっそりと行動を開始することを続けていた。その日数、およそ二週間。  訓練にも使うからと、三人の武器はそれぞれにしっかりと返却され、寝床として利用させてもらっているトパズ達の家の三階の空き部屋、そこで三人の身体と武器は夜を過ごす。  つまり、逃げるには絶好の機会。  窓の外には大きな木があり、それを伝って下りれば二階で寝ている二人の部屋の前を通ることなく外へ出られる。だが本来この村へ訪れたのは、ダイチが持っているという聖剣だ。  隠密行動を最も得意とするカイヤがその役を買って出、姉二人を先に家の外へ逃がしてから少女は木造の階段を音を立てずに降りる。小柄な彼女だからこそ床の軋みが発生せず、藍色の髪が闇に紛れてこの家の一番下の姉妹の部屋へと簡単に忍び込ませてくれた。  ゆっくりとした寝息を立ててベッドで寝ていることを確認し、入り口で部屋の中を目で確認。ベッドのすぐそばに鞘に納められた二振の打刀が視認できた。ただし一つは昼間に見た彼女の模造刀だ。つまり、その横の柄がない、何やら小さな包みを結び付けられた鞘の方がこの村に伝わる白刃の聖剣、シオンの剣ということになる。 「……」  息を殺し、僅かな距離をじりじりと進み、ひどく長い時間をかけて剣までの歩き続けている錯覚を覚えながら、カイヤはようやく聖剣を包んだ鞘を掴んだ。  やった。ついに手に入れた。  などと感慨に浸る暇はなかった。 「泥棒はいけませんよね?」  背後から伸びてきた手に肩を掴まれ、耳元で囁く楽しげな声が鼓膜を突き抜けて脳を貫き体を床に縫いつける。いやーな予感と感触を肩に持ちながらゆっくりと振り返れば、ついさっきまでベッドで寝ていたはずの部屋の主が、これ以上ないほどの笑顔で見下ろしていた。  翌日。まだ夜更けではないものの、聖剣の持ち主が風呂に入っている間に聖剣を盗んで村を脱出しようという案に変更。昨夜に何があったのか、何も言わずにただただおびえ続けているカイヤに労働をさせようという気にはならず、カイヤを連れて気分転換に行ってくると、居間でくつろいでいるトパズに告げて外へ。警戒する気などまるでないらしい彼女は二つ返事で了承してくれた。
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