エピローグ

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 心底楽しそうな声。恐怖そのものを実体化した影。悪魔が笑って言った。 「オシオキ、モットシテホシインデスネ」  翌日。風呂に入っていたはずの少女がどうして三人に対して先回りできたのかが謎に残り、その日は静かにしておくことにした。  お仕置きと言いつつ黒髪の悪魔は笑うだけで何もせず、自分の聖剣だけを取り上げると三人を風呂に押し込み、その後はまた何もなかったように床に就いていた。もう一度奪おうかとも考えたが、カイヤの怯えようを考えると得策ではないと姉二人で判断したのである。  新たな策を講じようということで四日目。この日も行動には出ず、どうすれば確実に聖剣を奪い、ここから脱出できるかということを考える。三人同時にいなくなれば逃げたことを疑われる。そこで朝食の際にコハク、カイヤを先に逃がし、エメラだけゆっくりと食事。先に聖剣を持って逃げている妹達を後で追うが、油断をさせるために二人はまだ寝ていると言って時間稼ぎを狙った。  だが、せっかく作った朝食が冷めると、顔を顰めて部屋に行ってしまう。トパズはいつも通り、眠そうに朝食を食べているが、居間に残されたエメラは冷や汗が止まらなかった。  ややして部屋の扉が閉められる音がし、階段の軋み。そこから二階の部屋の扉の開閉音。再び階段を下る足音が。 「トパズさん、エメラさん」  降りてきた少女は、いや悪魔は素晴らしい笑顔で告げた。 「ちょーっと、散歩に行ってきます。冷める前に食べておいてくださいね。お弁当は後で持って行きますから」  何も言わせない圧力を感じていたのはエメラだけらしく、気のない返事でトパズに見送られて天使のような悪魔が家を出て行って三十分。  先に行くから後で来るようにと言い残したトパズが出て行き、さらに数分後、三人が帰ってきた。ただし、あの悪魔はひどく楽しそうにしており、その笑顔成分が全部奪われでもしたのかと思うほどに妹二人が噛み合わない歯を鳴らして震え続けていたが。  結局その日も失敗に終わった。  それから何日も奪取、逃走を試みるも失敗。その後聖剣を奪うということを諦め逃走のみに目的を変更するがやはり失敗。  そんなことを繰り返し続けて二週間経った日のことだった。ダイチが提案してきたのは。
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