エピローグ

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「どうして?」  トパズにとって、この話題は二年間の内、ずっと気になっていたことだった。彼女の実力は当時でも年上の兵士達を圧倒していた。ルビアが大剣を振るえば誰もが受け切れず、彼女が構えれば誰もその防御を貫くことはできなかった。本気で剣技を使えば間違いなくその威力に押し切られ地面に叩き伏せられる。城に仕える騎士となったかつてのシオン村の兵士をも超えるとさえ言わしめる彼女の実力は、ともすれば優勝だってしてしまうかもしれない。  ルビアはトパズにとって誇りであり、憧れであり、目標だった。そんな人物がわけもわからない理由で戦技大会への出場を辞退しようとしていることが許せなかった。 (二年前はそう思った)  だが、今は違う。トパズ自身成長して、ルビアのことをより深く理解した。そして共に生活をしている中で気づいたのだ。ルビアが、本当は戦技大会に参加したがっていることに。  かつての怒りは間違いなく今でも存在するが、それよりも大きな怒りが燃え盛っている。自分のしたいことを押し隠している、愚かな義姉に対する炎が。 「あー……。はぁ。言いたくなかったんだけどなあ」  大きくため息を吐き、わかりやすく肩を落としてからトパズを見る。しかし義妹がまったく引く気がないと知り、もう一度ため息を吐いた。 「言っとくけど、話したところで気持ちは変わらないぞ?」 「……」 「わかった、わかったからそう睨むなって。……アタシが住んでいた村が、戦火に巻き込まれたのは知ってるよな。その日って、実は村の兵士達がみんなして別の町からの要請で村から離れてたんだ。その結果、防衛機能が著しく低下したアタシの村は」  両手を開き、言葉はなしに表現する。 「だからさ、アタシはそれが怖いんだ。村の兵士がいなくなったら、村が滅ぶんじゃないかなって。アタシがいない間に、このシオン村が潰されるんじゃないか。村のみんなが死んじゃうんじゃないか。……それを考えると、アタシは村から離れたくない」 「本当は戦技大会に出たいって気持ちを殺してでも?」 「気づいてたのか。ああ、そうだ。戦技大会へ出たい気持ちより、恐怖の方がずっとでかいからな」 「……何よそれ。馬鹿じゃないの」  俯いたトパズが小さな声で罵倒してくることに苦笑する。 「なんでトパズが泣くんだよ」
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