エピローグ

10/10
前へ
/200ページ
次へ
「泣いてないっ」  精一杯の否定に小さくため息を吐き、そうかと答えながら優しい義妹を抱きしめた。 「ありがとな。アタシのことを考えてくれてるってことは、よくわかってるよ」 「仲間が残るのに、なんで不安になってるのよ……」  ボソボソと、涙声にならないよう小さな声量で言いながら背中に回された震える両腕を愛おしく思いながらルビアは微笑みながら言う。 「みんなは信用してるさ。けど、アタシみたいな目にはあってほしくなくてな」  過去の記憶。忌まわしき日。今でも鮮明によみがえる記憶の中で、ルビアは震えることしかできなかった。剣を習っていながら、その力がまだまだ幼い子供のそれであることが目の当たりにされたから。  血が飛び、首が落ち、火が満ちる。そんな焼け爛れた悲鳴が支配する世界の中で、自分の手にある剣がひどく情けなく、頼りないものに思えた。無力さと喪失感。その両方に責め苛まれるようなことになってほしくないのだ。  もしもこの村であの悲劇が繰り返されるとなれば、自分一人が盾となり、他の村人全員を逃がす覚悟はいつでもできている。だからこそ嫌なのは、守ることが、盾となることができないことだ。  だからルビアは村から立ち退こうとはしなかった。 「おい」  しかし、それに横槍を入れるものが現れた。 「緊急時に村を護る戦力がないことが怖い。そういうこと?」  義妹の温もりと優しさを感じるために閉じていた目を開ける。そして目の前にいる、部下ではない余所者の戦士を視認した。茶色いツインテールに、左手に握られた遠距離攻撃のための武器。脚に取りつけられた金属板に加え、トパズと同質の強気な精神を表に醸し出すきつい表情がアイデンティティーの少女だった。  少女はつまらないと言いたげな顔でルビアに抱き着いているトパズの後頭部を見つめ、それから敬愛するお姉様と同じ程度の身長の女が見てくることを確認してから、背後に笑顔を浮かべているその敬愛する姉と、無表情を貫く氷のような表情の妹を連れて、さも嫌だと言わんばかりの表情で言った。 「なら、コハク達がおまえの代わりを務めてやる」 「……は?」  コハクの申し出は、ルビアの思考を凍らせた。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加