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「さっきまで村長やサフィが見舞いに来てくれてたのよ。二人の容体を見て、それからすぐに帰ってしまったけど――」
「村、長?」
どこか引っかかる。
(思い出せアタシ! 大事なことだったはずだ……忘れちゃいけない、何か!)
「ルビア? 苦しいのルビア?」
目を閉じ必死に記憶を辿るルビアが険しい顔をしてみせたせいでそう勘違いしたらしいトパズは不安そうに声をかける。だが今返答をするために口を開くと思い出しかかっている何かが再び記憶の彼方へ消え去ってしまいそうで、ルビアは何も言わずに思考する。
「ルビア? ねえ大丈夫!?」
(うるさい……)
思い出せ、思い出せ、思い出せ。念じながら喉まで出かかった何かを捻りだし、引きずり出し、そして引っこ抜いた。
――今は、身内を救うことが先決ですね。村の長の孫娘の助けを借りるとよいでしょう。
そしてその甲斐あって、脳裏に知らない、綺麗な声が甦った。
「わ、わたし医者を呼んでくるわ!」
「待てトパズ! 思い出した!」
「うわっ、だから急に起きないでってば! ほら咳き込んで! 大声も禁止!」
体を起こした義姉の背中をさすって労わるトパズに手で感謝を示し、それからその両肩を掴んで額と額を突き合わせる。
「ヒスイの容体、やばいんだよな?」
「う、うん……」
途端に激しく落ち込む義妹。
「いいか、もしかしたら助かるかもしれない。今すぐに医者とサフィをここへ連れてきてくれ!」
「サ、サフィを?」
「いいから早く! ぐっ、ゲホッゲホッ!」
「わ、わかったわ。急いで行ってくるから、それまでルビアは安静にしてるのよ? 絶対だからね!」
トパズはルビアに釘を刺して部屋を飛び出し、雨の降りしきる中を駆け出して行った。流石はシオンの剣で兵長を除けば駆け込み一位だ、あっという間に遠くまで行ってしまう。ぬかるんだ地面でも難なく走ることができるのは普段から体幹を鍛えているためだろう。ヒスイの様子を見に行きたいが、ベッドから出るべきではないと体の不調でわかり素直にじっとしている。できることと言えば考えることくらいだ。
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