第三話~繋がれる命~

6/25
前へ
/200ページ
次へ
「それにしても」  首をひねる。さっきの声はいつ聞いたのだろうか。得も知れぬ義務感に迫られて思い出したが、あんなに綺麗な声の持ち主は今も昔もこのシオン村にはいない。シオン村の外と言えば両親に拾われるより以前のことならば、今回の助けになるような言葉はあり得ない。もちろんあの言葉がヒスイとサフィのことを指しているとは限らないのだが、なぜかあの二人のことだとわかった。理由はわからないがそう確信できる。そうなると遙か昔ということはありえない。 (元はダイチのことで妙な感覚になったんだっけ。えっと、なんていうんだったっけ。でーじょーぶ? ……なんか無事なことを宣言してるみたいだ。たぶん違うな)  こんなくだらないことを考えているのは、無意識にヒスイのことを頭から追い出そうという自己防衛本能に違いない。もちろん家族の安否を心配しないわけがないが、今のルビアには傍にいてやることすら覚束ず、何も変わらないことで心を病ませてもいいことにはならないからだ。  既視感(デジャヴ)という言葉を思い出すより早く慌ただしい足音が帰ってきた。ドタバタと床を荒々しく踏み鳴らしながらずぶ濡れになったトパズがルビアの部屋へ駆け込んできた。少し遅れて足が濡れた医者とサフィも入ってくる。随分と歳を食った、白い顎鬚を蓄えた白髪のおじいさんはシオン村で唯一の医者だ。息切れをし、サフィに背中をさすってもらいながら感謝の言葉を吐いている。事情が事情だ、体に無理を言って駆けつけてくれたのだろう。 「ルビア、二人を連れてきたわ! どうしたらいいの!」 「ご苦労様。サフィ、頼みがあるんだ」 「ルビアのお願いとあらばなんでもしますわ。ですが、わたしに何ができるんでしょうか? ヒスイさんを助けられる、と聞いて来たのですが」  ヒスイの容体を知っているためか、しゃべっている途中でどんどんと表情が暗くなっていく。隣に立つ医者も同様だ。 「ルビアさん、残念じゃがヒスイさんはもう助からん。傷の手当はした。低くなった体温についても対処した。ひどい状態で、それだけなら助かる見込みもあるのじゃが……」 「血液が足りない。そうだよな?」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加