第三話~繋がれる命~

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「何がだ!」  ルビアが激昂した。一瞬眉をひそめて歩み寄ってきたマリンの胸倉を掴み、トパズの制止も聞かずに叫ぶ。 「何が大丈夫だ! 血を分けられない! 他に助ける方法もない! ヒスイはもう死ぬしかないんだよ! ああそうだ、アタシが助けられなかったからだ! 全部アタシの責任だよ! こうやってマリンに文句を言うことが間違ってるってわかってるさ、けどそんな言葉だけの慰みに何の意味がある!」  涙を溢れさせて怒鳴るルビア。マリンが憎いわけではない。マリンに非がないことも分かっている。これはただの八つ当たりだ。情けない、ただのわがまま。自分の責任を抱えきれずに他者に押しつけようとしている。 「何も大丈夫じゃない! ヒスイは死ぬんだ!」 「死なない」  だが、何にも臆すことなく、怯むことなく、怒ることもなくマリンは言った。 「ヒスイさんは死なない」 「なんでそんなことわかるんだよ!」 「ダイチが動いてるから」 「ダイ、チが?」  想定外の名前に勢いが削がれる。周囲も意味がわからないという顔をする中でマリンは握力の緩んだルビアの手を外して皺ができた胸元を綺麗にしながら説明した。 「ダイチが今、隣町まで走りに行っている。ヒスイさんを代わりに看ているようアクアちゃんとわたしが代わりに残った。だから心配はいらない」 「走ってどうなる……馬でも六時間はかかるんだぞ。絶対に――」 「ダイチはありえない」  ルビアの言葉を遮りマリンは不可解なことを口にした。ありえないとはどういうことなのか。 「マリン。ダイチがありえないってどういうこと?」  トパズが質問をするとマリンは頷く。 「ダイチはありえないことばかり成し遂げる。あんなに小さな体でシオン村の強豪を打ち倒し、自分より大きな二人を大雨の中抱えて村まで帰ってきた。一緒に住んでいるルビアやトパズなら、もっと心当たりがあるんじゃない?」 「……」
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