第三話~繋がれる命~

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 マリンが戸を拳で軽く叩く。 「いないのかな?」 「この雨だから気づいてないだけだと思う。勝手で悪いけど、入らせてもらおう」 「え、いいの?」  戸を開けて中へ入ろうとしている妹を驚きの目で見つめるとマリンは小さく頷いた。 「きっとルビアやヒスイさんのことで手がかかってるはず。わざわざわたし達の相手までさせる必要はない」 「それもそっか」  普段の明るさがない姉を一瞥し、濡れた体を叩いて水を落とし中へと入る。正面にある突き当りを左に折れ、左にあるいくつかの扉の横を通り抜ける。目の前に広がる居間は、しばらくぶりに来たが内装は変わりなかった。これまで通り、ずっとヒスイがここで家事をしてきているのだろう、汚れもなく、綺麗に整頓されている部屋を少し眺め、後ろから付いてくる姉を確認しながら居間から二階へと繋がる階段をゆっくりと登る。雨に混じって足元から軋む音を感じながら二階へ到着。この階は三階へと続く階段までの真っ直ぐな廊下と、左右に設けられた部屋しかない。  一番近い右の部屋がトパズ。その奥がルビアの部屋。ルビアの向かいの部屋がヒスイの部屋だったはずだ。  どちらの部屋も静かだ。ルビアもヒスイも眠っているのだろう。  どちらの部屋を覗くか思案し、それからすぐにヒスイに決める。 「ルビアは雷に打たれたところで死ぬような女じゃないよね」 「いや、流石に雷はまずい」  姉が全幅の信頼を寄せるのはいいが過度な思い込みを否定しつつ、ヒスイの部屋の戸をノックする。  短い返事を確認してから中へ入ると、ベッドの横に置かれた椅子に腰を掛けているダイチが目に入った。烏の濡れ羽色に輝く長い髪と彼女の手にある濡れた布。服は着替えたようだが髪の具合からして随分と雨に打たれていたらしい。  暗い表情をでベッドを見つめていたダイチはアクアとマリンを見て小さく頭を下げる。  ベッドの上ではヒスイがうつ伏せで寝かされていた。横に向けられた顔は苦悶の表情を浮かべ、胴にグルグルと巻かれた白かった包帯は既に真っ赤になっている。その血の広がり具合から医療の素人である二人でもひどい怪我をしているのだとわかった。 「あ、ああ……」 「何があったの?」  ヒスイの怪我を見て慌てふためく姉をなだめながらダイチに問う。
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