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「わたしのせいです……。わたしがつまらない意地を張ったから、ヒスイさんが……。また、またわたしのせいで……! わたしのせいで大事な人が!」
「……」
苦しそうに自身の膝を殴りつけるダイチ。何度も何度も何度も己の拳を叩きつけ、左の膝が真っ赤になっていく。自分を傷つける小さな女の子が見ていられず、廊下から足音が聞こえる中で姉を突き放して少女の左手を掴んだ。
「あわわわわはわっ!?」
後ろで姉が倒れる音が聞こえるが気にせず、開いた瞳孔がフラフラと揺れ、定まらない焦点で見上げてくるダイチを見下ろした。ここ数日、戦闘訓練ですら怯えを見せなかったあのダイチが怯えている。彼女にとって自身を失うことよりも他の誰かを失うことの方が耐えられないというのか。
(わからないではないけど……)
マリンにもそういう人がいる。何も考えずに他の子にセクハラばかりしている迷惑な人だが、それでも自分かその人しか助からないとなれば自分を捨てる。間違いなく即決で。恐らくその人も同じことを考えてしまうだろうが。
「ヒスイさんの容体は?」
ダイチが落ち着いたことを確認して左手を放す。もう自分を殴るようなことはせず、力なく左手を膝の上に落として項垂れながら小さな声で答えた。
「傷が深く、雨による体温の低下もあり……危険な状態ではありますが、それだけなら助かる見込みもあるそうです」
「……出血?」
小さく頷く。
「お医者様が、多量の出血は医者でもどうしようもないと……」
たしかに、血液の不足は手の施しようがないと言える。血を分け与える方法がないわけではないが、それはもう医者ではなく占い師によって血液の提供者を決めたほうがいいほどの運任せだ。他者の血液を体内に取り込んで拒否反応が出る確率はおよそ二十五パーセント。四人に一人しか成功した例がない。
「血液を分け与える道具が隣町にしかないから、この村では――」
「隣町!?」
突然ダイチが立ち上がった。立ってなおマリンより低い身長で下から見上げてくる。さっきとは違う理由で瞳が揺れていた。
「隣町に行けば、ヒスイさんを助ける方法があるんですか!」
「血液を分ける道具があるだけで、それがあれば助かるってわけじゃない。失敗する可能性の方がずっと大きい」
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