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「それでも可能性があるなら、少しでも助けられるかもしれないなら、わたしはそれに賭けます! 血液が必要ならわたしの全てを分けてくれて構いませんから、だから教えて下さい、隣町までの行き方を!」
――また、またわたしのせいで……! わたしのせいで大事な人が!
(昔、誰かを失ったのかな)
ダイチの必死な目を見せられては答えずにはいられなかった。
方角と距離、それから徒歩でかかる日数を大まかに教えると、壁に立てかけられた模造刀を背負い、
「二時間で戻ります! それまでヒスイさんのことをお願いします!」
「ダイチー!?」
部屋から飛び出していったダイチの背中にアクアが叫ぶが、少女は濡れて重くなった髪を靡かせて階段を飛び下りていった。何とも身軽な動きに圧倒されながらマリンは廊下に置き去りにされた布を拾い、呆然としているアクアに手渡す。
「わたしはルビア達にダイチのことを伝えてくる。アクアちゃんはそのままヒスイさんのことを看てて」
「え? でもあたし、医療の心得とかないよ!?」
「ヒスイさんが目を覚ましたり、何か変化があれば知らせてくれればいい。できるよね?」
「それくらいなら、なんとか……」
「頼りにしてるよ、お姉ちゃん」
なんだかんだで頼りになる姉にその場を任せ、マリンはルビアの部屋へと赴いた。
* * *
「ん……」
いつの間にか眠っていたらしい。義兄義姉が危険な時に何をしているのだろうかと自身を叱咤しながらゆっくりと体を起こす。
「起きたか、トパズ」
聞き慣れた、粗雑さの混じる穏やかな声がした。目の前のベッドに腰掛けながら、義姉が優しい笑みを浮かべて見つめている。いつの間に解いたのか、髪留めを外して後頭部で結っていた髪を下ろしている。風呂を出てから寝るまでの間でしか見ない姿だ。
「ルビア」
「アタシの膝の上でぐっすり眠ってたぞ。トパズは本当に寝るのが好きだな」
「う……」
からかわれている。そうわかってはいても反論ができず押し黙るしかない。
「体は、どうなのよ」
「うん、トパズがずっと傍にいてくれたからだいぶよくなったぞ。さっき医者がもう一度来てくれたが、明日にはもう日常生活程度のことは大丈夫らしい。数日もすれば元通り、シオン最強に戻れるさ」
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