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上腕に力を入れてこぶを作り、いつも見せる元気な笑みで答えた。
「ヒスイも、とりあえず状態が急変した様子はないそうだ。アクアやマリンだけじゃなく、ペリドット達も様子を見に来てくれてるし、今は任せていよう」
「わたしも何か手伝ってきた方が」
「今は皆に任せてトパズはゆっくりしてろ。看病を頑張りすぎておまえさんまで倒れたらこの家はピンチだぞ。誰がアタシ達に飯を食わせてくれるんだ?」
「あ、そっか……ヒスイが動けないならごはんも掃除も洗濯も、全部わたし達でやらないといけないのよね」
「ダイチが帰ってきても疲れてヘロヘロになってるに決まってる。三人分の仕事、しっかり頼むぞ?」
「まずくても食べさせるから覚悟しててよね」
それは勘弁だなあと呻く義姉を見てトパズはクスリと微笑んだ。今は、今この時だけは現実を忘れて望む未来を思い描いていたい。誰一人欠けずにこの家で共に食事を摂り、腕を競い、時には喧嘩をし、けれど最後にはヒスイに食事を抜きにすると脅されて和解する、そんなありきたりで普通な、しかし最高に幸せな未来を。
外を見れば、やはり空は荒れたままだった。これは嵐と呼んでもいいのかもしれない。
隣町へ向かったダイチは大丈夫だろうかと気になってしまう。町へ向かう途中で倒れてはいないだろうか。無事にたどり着けただろうか。
ヒスイのことがどうでもいいわけではないが、道具をうまく入手できたかどうかよりも彼女の身の安否が気にかかった。
窓の外を見ていたトパズの心を読んだわけではないだろうが、考えていることを察したのかルビアが義妹の頬にそっと手を添える。
「あの時……」
ルビアが穏やかな表情を見せながら口を開く。
「マリンに思わず文句を言っちまったけど、落ち着いた今ならマリンの気持ちがわかる。ダイチはすごいやつだ。やるやつだ。だからきっと、今回のこともうまくいく」
「……どうしてそう思えるの? どうしてそんな簡単に信じられるの? わたしももちろんダイチのことを信じたいわ。でも、あの子だって万能じゃない。神様じゃない。できないことだってきっとある」
「そうだなあ。こればっかりは、あいつの本質に触れたアタシにしかわからないかもしれないな」
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