プロローグ

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──20✕✕年 5月31日 山奥。 その一言でしか表現できない場所にそれは存在していた。 野良坂第一D波研究所。 本来なら科学者達が忙しなく働いている姿が外からでも見物できるのであろうが、今はそんな光景が見られないほど、シンと静まり返っていた。 中に大勢いるはずの科学者は、2人…だけだった。 「………はい。2日前、実験用マウスにD波を放射させました」 「…結果は」 「マウスは全身を変化させ、凶暴な肉食動物になりました」 2人の科学者は、厳かに実験のことを話している。 「変化の際、マウス実験チーム25名全員が、マウスに殺戮されました」 「殺戮、か?」 「はい。見るも無残でしたよ。マウスは肉食ですし…」 「それ以上言わなくていい」 研究長の野良坂水樹(のらさか みずき)は顔をしかめて言った。 もう一人の科学者は持谷降明(もつたに おりあき)。実験で変化したマウスによって、生き残った科学者はこの2人だけなのだ。 「ほんとこれからどうするんですかねー、全く…」 「他人事のように言うな」 野良坂は呆れながら言った。 「こちとら日本政府に頼まれてんだ。そう簡単に諦められねぇよ…」 「そう言いましても…───」 その時、研究所に思わぬ客が入ったのを、2人は気づくことができなかった。 「その話、面白そうだからもーっと聞きたいなぁ?」 不意に開け放った窓から、変声期の過ぎた青年の声が響く。
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