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彼人が教室を出ようと歩き始めると、澪がさりげなく彼人の手を握った。ぎゅ。
当然、彼人は立ち止まらざるを得ない。
「…っておい!当たり前のように手をつなごうとしてくるんじゃねぇ!」
彼人は澪の手をほどいた。
「え~どうして~?」と、不満そうな澪。
「どうしてってお前なぁ…」
澪は俗に言う『上目遣い』で彼人を見て、言った。
「からかわれるの、嫌?」
「い、嫌に決まってんだろ…」
「え~」
「な、何だよ」
「私は可愛いかなちゃんが見られて嬉しいけどなぁ?」
澪は悪戯っぽく言った。
「なっ!……何言ってんだ!」
そっぽを向いた彼人の顔は真っ赤だ。
「あー…もう。……ほら」
彼人はそっぽを向いたまま、澪に手を差し出した。
「うんっ!」
澪は嬉しそうに彼人の手を取った。
(…澪って頭悪ぃくせに、こういう時だけ1枚上手なんだよなぁ…)
彼人は澪の手をそっと握り返しながらそんなことを思った。
2人が家に着く頃には辺りは暗くなり始めていた。
「んじゃ、また明日な。ちゃんと戸締まりすんだぞ」
「うんっ!おやすみー!」
彼人と澪はお互いの家の前で別れ、挨拶を交わす。
彼人がただいま、と声をかけると、母が出迎えてくれた。
「あら、お帰り!遅かったのね。澪ちゃんは?」
「ん、一緒に帰って来た。いつもみたく」
「そうなの、良かった。あの子、親御さんがいないから心配だわ…」
母が心配そうに彼人に言った。
「そう…だな」
彼人はいたたまれなくなって歩き出した。
「彼人、ごはんは?」
母の声に彼人は立ち止まる。
「んー、いらねぇ」
「そう、わかったわ」
母が台所へ消えると、彼人は自分の部屋へと階段を上った。
「はあぁ……疲れた…」
彼人は自分のベッドへダイブし、呟く。
帰ってから真っ先に考えるのは、いつも澪のことだ。澪はどういうことか物心ついた時から両親がいない。澪の親戚にあたる人も、何故だかいなかったので森崎家が世話をしていたのだ。森崎家はまあまあそれなりに裕福なので、お金の心配もない。
だから、澪もそんな森崎家に甘えて暮らしてきた。
彼人はしばらく物思いにふけっていた。
「……寝るか。今日宿題ねぇし」
そう言って目を閉じた彼人だったが、不意に澪のクラスは宿題が出ていたことを思い出した。
(──明日土曜だし。学校休みだから澪の宿題見てやるか)
そう思った途端、彼人は急速に眠りに落ちていった。
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