1 As usual after school

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彼人が教室を出ようと歩き始めると、澪がさりげなく彼人の手を握った。ぎゅ。 当然、彼人は立ち止まらざるを得ない。 「…っておい!当たり前のように手をつなごうとしてくるんじゃねぇ!」 彼人は澪の手をほどいた。 「え~どうして~?」と、不満そうな澪。 「どうしてってお前なぁ…」 澪は俗に言う『上目遣い』で彼人を見て、言った。 「からかわれるの、嫌?」 「い、嫌に決まってんだろ…」 「え~」 「な、何だよ」 「私は可愛いかなちゃんが見られて嬉しいけどなぁ?」 澪は悪戯っぽく言った。 「なっ!……何言ってんだ!」 そっぽを向いた彼人の顔は真っ赤だ。 「あー…もう。……ほら」 彼人はそっぽを向いたまま、澪に手を差し出した。 「うんっ!」 澪は嬉しそうに彼人の手を取った。 (…澪って頭悪ぃくせに、こういう時だけ1枚上手なんだよなぁ…) 彼人は澪の手をそっと握り返しながらそんなことを思った。 2人が家に着く頃には辺りは暗くなり始めていた。 「んじゃ、また明日な。ちゃんと戸締まりすんだぞ」 「うんっ!おやすみー!」 彼人と澪はお互いの家の前で別れ、挨拶を交わす。 彼人がただいま、と声をかけると、母が出迎えてくれた。 「あら、お帰り!遅かったのね。澪ちゃんは?」 「ん、一緒に帰って来た。いつもみたく」 「そうなの、良かった。あの子、親御さんがいないから心配だわ…」 母が心配そうに彼人に言った。 「そう…だな」 彼人はいたたまれなくなって歩き出した。 「彼人、ごはんは?」 母の声に彼人は立ち止まる。 「んー、いらねぇ」 「そう、わかったわ」 母が台所へ消えると、彼人は自分の部屋へと階段を上った。 「はあぁ……疲れた…」 彼人は自分のベッドへダイブし、呟く。 帰ってから真っ先に考えるのは、いつも澪のことだ。澪はどういうことか物心ついた時から両親がいない。澪の親戚にあたる人も、何故だかいなかったので森崎家が世話をしていたのだ。森崎家はまあまあそれなりに裕福なので、お金の心配もない。 だから、澪もそんな森崎家に甘えて暮らしてきた。 彼人はしばらく物思いにふけっていた。 「……寝るか。今日宿題ねぇし」 そう言って目を閉じた彼人だったが、不意に澪のクラスは宿題が出ていたことを思い出した。 (──明日土曜だし。学校休みだから澪の宿題見てやるか) そう思った途端、彼人は急速に眠りに落ちていった。
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