A Prelude

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しかも孔の空いた靴を履いている左足は数日前から痙攣をおこしてもいる。 よく転ぶようになったのはそのせいだろう。 しかし子供自身はそうしたことについて一言も弱音を吐かなかったし、またオズも気づかぬふりをしている。 彼女のそうした強がりを傷つける権利など自分にはないし、そうした意地を貫き通せるだけの意思の強さが必要となる。 だが………… オズは子供、少女の後を追いかけて歩き出した。 足を踏みしめると、足元の雪がギシリと、微かな音を立てる。 この一体がギシリ雪原呼ばれている所以だ。 どこまでも続く一面の雪景色にか細い足跡を点々と残しながら、隻眼の男は先歩く少女の小さな背を眺めた。 その口元は堅く引き結ばれ、先ほど浮かんだ微笑はもはやその欠片もなくなっている。 本来、目的地まで行くのにこの雪原を正面から越える必要などまったくない。 南東の港街カオクフから延びている水路を船で上り、その終着点で馬なり鹿なりに乗り換えればいい。 その路筋ならば厳しい雪原越えはほんの数日ですむし、行き来をする隊商と移動を共にできるから行程の困難さも比べ物にならない。 実際、雪原を超えてやってくる人間なんてまずいないからと、その出入りを管理されていないほどなのだ。
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