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その日は何事もなく、臨也がいつも通りシェリアや女生徒にしばかれ全ての授業が終わった。
他の生徒たちも大勢が帰宅し、夕陽が眩しく教室に入り込む時間となった。そんな中臨也は一人教室の中でばっちりと夕陽に照らされながらぽつんと座っていた。
「え、アイツ忘れてないよね? 俺の幻聴だった?」
そんな不安に駆られていると、待ち人がやってきた。
「ごめんなさい遅れちゃった!」
「良かった、嘘をつかれた悲しい臨也くんは居ないのね!」
アイリスが息を切らし肩を動かしながら入って来る。
「そんな急がなくてよかったのに。まぁ、掛けなさい」
「あ、うんありがと。失礼します・・・?」
何故か面接官のような雰囲気を醸し出す臨也にアイリスは疑問符を浮かべる。
少し息を整えると、アイリスは喋りだした。
「えっと、正直わざわざ呼び出すのも悪いかなとは思ったんだけどやっぱり二人きりでキチンと伝えたくて」
「おん?」
少し照れるような素振りを見せるアイリスに臨也は少し戸惑った。
二人きりで気まずくなるとか、そのようなことは決してないが本音を言えばそこまでして話すような共通の話題が一切思いつかない。心当たりがない彼は思考を巡らせる。
(あれ、俺コイツに何かしたっけ。もう写真商売はやめたし・・・。もしやバックアップか? 俺が虎の子として数枚残してある写真のことか!!? それはマズイ! あれは飢え死にしそうになった時の最終手段として絶対にとっておかないと・・・!)
「あのね、あのことシェリアから聞いたんだけど」
「ん??」
だが、この話は二人だけで留まることはなく・・・。
―――――――――――――――
この日。授業も終え学校での予定をすべて消化したシェリアは急ぎ足で自身の教室へと戻っていた。
理由は単純。彼女にしては珍しく忘れ物をしていたのであった。
この世界では勉学に励むものは決して少なくない。中でも魔法というのはその成果が如実に表れる。彼女は英雄という立場に慢心することなく日々の研鑽を欠かすことはなかった。
(とはいえわざわざ戻るまでもなかったかもしれませんね)
このような思いもあるが、彼女としては学園に私物を残すのが何となく許せない性分というのも関係しているこであろう。
(? 人の気配・・・?)
教室に近くなると人がいるであろうというのが理解できた。
普段であれば気にすることはないが、中に居る人物達を見てぎょっとする。
放課後、夕暮れ時の教室に男女が二人。それもとても見知った顔。
しかもそれが何やらただならぬ雰囲気であった。臨也とアイリス、それぞれが真剣に向かい合っているその様子はまるで一世一代の報告をするかのような・・・。
そんな姿を見ると一瞬にしてシェリアは廊下に隠れてしまった。自分でもわからないが、つい二人の間に入ってはいけないと感じてしまった。
(何を私は隠れているんですか! そ、それはそうと何故あの二人が・・・?)
そっとしていると二人が話し出すのが聞こえる。
「あのね、あのことシェリアから聞いたんだけど」
「ん??」
臨也は、良かったつまり写真のことではないなと思い安堵の息を吐く。
「ほら、リンヤ達が以前ラキ王女のいるところに行ってきて・・・」
「あぁ、あの時か」
それで臨也は理解した。
アイリスとシェリアの仲は特別だ。幼い頃から共に育ち、共に様々なことを共有してきた。親友という言葉では足りないだろうというほどの深く特別な関係。
要するに彼女は、シェリアが以前仕えていた召喚士と向き合い、乗り越えられたことに関して何か伝えたいことがあるのだろうと。
「別に、俺は何もしてないよ。アイツがお嬢のパンティを盗んだから罰が当たっただけだろ」
「んーん。そんなことないよ。あといきなり気になる話題出さないでくれる?」
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