彼女はその頃

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「こ、今度見かけたら必ず美味いと言わせてやる・・・! あの黒髪め」 「は、はぁ・・・」  全てを語り終えた男性は、思い出すと熱が入ったように燃える。  その話を聞いた二人は正直呆れるしかなかった。 「ところで、なんでそんなこと尋ねたんだ? あの黒髪と知り合いかい?」  落ち着いた男性は、何故そんなことを聞くのか疑問に思った。  その質問に答えたのはシェリアだった。 「私はとある人を探しています。必ず見つけなければならないんです」  一切の濁りのない瞳で、そう断言した。  男性はそれを見ると再び口を開く。 「・・・なら、その貴族を尋ねるといい。俺よりあの人のが知ってるだろうからな」 「ありがとうございます」  シェリアは静かに、だが確かに感謝する。  その後は貴族のいる屋敷への道を教えてもらい、男性とは後にした。  初めてと言えるかもしれない有力な情報に、シェリアは足を無意識に速めてしまう。それをアイリスがいつの間にか再度購入した綿あめを頬張りながら、そしてニヤついてシェリアに話しかける。 「いやぁ、もうシェリアったら大胆だよねぇ」 「? なにがですか?」 「"私は"、なんて言っちゃってさ。ソノザキが好きとはいえアタシを忘れないでよねぇ」 「あ、あれは! その、そういう意味ではなくて! 第一、探し人の性別なんてわからないんですよ!」  速めていた足を止め、言い訳するように身振りをつける。  それは、紛れもない恥じらい。 「でもシェリア"彼"って決め付けてたじゃん」 「それ、は・・・。その・・・」  本当に、ソノザキの話題になるとシェリアの冷静さが嘘のように消えてしまう。アイリスにとってそれは嫌なことではなく、むしろ新しい彼女を見られたようで嬉しく思ってしまう。 「まま、早く貴族さんのところいこっか!」 「・・・何か解せませんね」  そんなやり取りをして二人は歩き出す。  そして。  すぐにその時はやってくる。
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