彼女はその頃

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 周りが木々で囲まれている森。  日はまだ出ているが、日陰が多い。故に薄暗くかつ肌寒い。  幸いなのは歩きやすい平地になっていることだろう。 「・・・服装を間違えましたね」 「あはは、それだとちょっと寒いよね」  スカートはともかくとして、上半身も薄いのは間違いだった。半袖ではないものの、薄い作りのそれは思わず腕をさすってしまう。 「で、ここが結界の座標だよね」 「えぇ」  二人がそう言う目の前には、なにもない。視線の先にも森の続きがあるだけ、腕を差し出しても空をかするだけ。  だが二人はこの地点からループ現象が起きていると確信していた。 「どうやって突破しようか」 「召喚すればどうにかなります、問題ありません」  剣士のアイリスでどうこうできる結界ではなかった。  しかし、召喚士のシェリアは違う。多種多様の生物を使役できる最強の戦士。シェリア程の使い手ならば、結界を破るのもさほど苦労はない。  しかし。 「壊しちゃったら怒られない? これ張り直すって相当苦労するよ?」 「・・・謝りましょう」 「なんか投げやりじゃない?」 「ですが――」  それ以外に方法は、と続けようとした時だった。  誰かが近づいてくる。声が、聞こえる。 「あんのなんちゃってお嬢様め・・・。美少女でなければ激おこになる程の暴行だ」  二人は最低限の警戒を怠らず、それを待つ。それは丁度よく二人の所へ向かっていた。  影がどんどん近づき、鮮明になっていく。二人は見た。異形を。  真っ黒な髪の毛。それ以外は、特徴などなく普通と表すのが適切と言える。身長も、体格も、顔も普通なそれは近づくと気づいた。 「へい、そこのお二人。ここには何もないから帰ったほう、が・・・!?」  黒髪は、二人の顔を見ると確実に固まった。  驚き、焦燥。急速に何かがこみ上げてきた。だが、それは黒髪だけではない。 (えっ・・・)  シェリアは、確実に鼓動が高まった。  ――ドクン、と。わからない何かが渦巻く。声を出そうにも唇が震える。  先に口を開いたのは"アラン"という黒髪だった。  アランは、静かに。そしてその中に明らかな敵意を含めて発言する。 「・・・何だテメェら」  だがそれは。  探し人の園崎臨也であることはまだ知らない。
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