オタクと勇者のマナー講座

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「ここは明らかに超高級店だ。ただの金持ちじゃあ来れない、間違いなく貴族御用達のな」 「あ、あぁ」  それはライクスも理解できていた。外装もそうだが、店内の造りは一線を画していた。厳選され特別な加工を施したであろうオブジェ、白が目立つ綺麗な大理石。さほどゴチャついていなくシンプルな造りだが、その一つ一つには品が感じられる。  つまり園崎臨也という男とは無縁の場所なのだ。 「貴族っつーのは愚か者が多い。それは知っているだろう?」 「? あぁ」 「アホな貴族のように露骨な態度をとらなきゃいけるさ。後はお前が俺に作法を教えるのみ」 「・・・お前のその考えは絶対に間違えているだろうからあまり変な態度とるなよ」 「しょ、しょんな」  まず店にやってくる貴族が愚か者というびっくりな偏見。さらにはその愚か者より酷い態度を取らなければ大丈夫だろいうという根も葉もない根拠。この男は疲れているのだろう、うん。  だがそれはそれとしてだ。臨也が危ない勘違いしていることをライクスは伝えるべく口を開いた。 「それと悪いが、俺はマナーに関してはなにも知らない。育ちが良いわけでもないんだ」 「・・・・・・・・・ふぇ?」  つっまんな!! とでも言いたげな視線を交えライクスを見つめる。そんな表情にイラッとしつつライクスは続ける。 「常識程度のものしか作法は知らない。だから俺としてはリンヤに頼るしか・・・」 「ばっか、俺はオタクだぞ? ラノベとネットの浅い知識しか知らない変態だぞ? どーすんのこれ?」 「だから俺は止めようとしたんだ」  額に手を置きため息をつく勇者とあわあわしているキモオタ。実に面白い光景だ。  と、そうこうしていると席に着いたようだ。 「こちらになります」 「は、はい」  もうここまで来たら食べてしまおう、とライクスは考えた。幸運にも手持ちはかなり持っている。食事くらいなら二人分と言えど払えるはずだ。  店員は一度頭を下げると背を向けてどこかへ行ってしまった。ライクスは何となくそれを疑問に持つと臨也が神妙な面持ちで口を開いた。 「ライクス、腹痛い」 「我慢しろ」  どうなるやら。
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