彼女はその頃

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「・・・少しだけですよ」 「やった!」  シェリアは折れたようにアイリスの言うことを承諾する。シェリアはしっかり者で頭も冴えるが、アイリスには少しだけ甘いところがある。  食べ物を買いに行くアイリスの背中を見つめながら、考える。 (さて、これだけ大きなところなら何か求めるようなものが聞けるかもしれません・・・。アイリスと一緒にまずは・・・)  歩行者に声をかけよう、と決める。そこから情報屋のようなものをたぐればいい。一年以上かかっていることだが、焦ることがないのはシェリアの人格を伺える。  そうして段取りを組み立てていると、アイリスが戻ってきた。  シェリアはアイリスの手に持っている物を見て呆気にとられる。何か問題があるわけではないが、それは見慣れぬ異形な物で。 「あ、アイリス。なんですかソレ?」 「ふっふーん、凄いでしょう? これわたあめって言うらしいよ。甘くて美味しい!」  雲のような、ふわふわとした菓子であった。  そのようなもの一度も見たことがないシェリアは物珍しげに見てしまう。 「そんなものがあるんですか・・・。この国の特産物でしょうか?」 「みたいだね。大体二年前に作られたらしいし。あ、それと・・・」  小さい子供のように関心そのもので綿飴を見るシェリア。見知らぬ事は色々と吸収したいのが彼女だ。  そんなシェリアとは違い、どこか表情が曇るアイリス。綿飴を食べるときは幸せそのものだが。そんなアイリスが口を開いた。 「これを買ったときついでにソノザキについて尋ねたんだけどさ。ちょっとヤバめの情報引いたかも」 「・・・なんです、それは?」 「ソノザキって名前は知らないけど、変わった人ならこの国にいるらしいよ」  シェリアは適当に頷いて言葉を待つ。 「その、変わった人って言うのが黒髪の人らしくて・・・」  シェリアはその台詞に明らかな衝撃を受けた。  黒髪の人間。そのような人物がいることは知っている。  だが。それは。その存在は。 「・・・魔王、ですか」
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