彼女はその頃

6/15
前へ
/157ページ
次へ
 この世界には魔族と呼ばれる生物がいる。一概に全部とは言わないが、魔族というのは強力な力を持っておりかつ凶暴性なのが多い。そんな魔族でも上位に位置する悪魔と呼ばれる存在がいる。  その悪魔系の中には人間の姿に化けることのできる奴がいる。それはとても精巧なもので、とてもじゃないが見分けなどつけられない。当然、魔族の頂点である魔王と呼ばれる者。名をミドラというが、それが人に化けた際には黒髪という魔族らしい特徴が出来上がる。 「うーん、やっぱりシェリアもそう思うよね」 「悪魔が変体できるなど知っているのはごく一部ですからね」 「ま、見た感じ何かしらの実害はなさそうだし。とりあえず綿飴売ってた人にもういっかい聞いてこよ?」 「そうですね」  むしろ、好都合だと思った。  アイリスの先の言葉。女心をくすぶるような綿飴というお菓子。明らかにタイミングが出来すぎている。  およそ二年前に作られた、と言った。丁度『異物』と言われる力との決着がついた時期。こんなもの、胸が踊らずにはいられなかった。 「あ、あそこだよ。おじさーん!」  ほんの少しだけ歩くと、それはあった。  木材でできた簡素な屋台だが、中心には円筒のような器具があり何か魔法を駆使しているように見えた。髪が薄い中年の男性が商売をしていた。 「おぉ、さっきの嬢ちゃんじゃないか。あまりの美味さにまた買うかい?」 「えっと・・・」 「突然すみません。私たちは少し尋ねたいことがあります、いいですか?」  急かすように、シェリアは早口で言った。 「これまた綺麗な嬢ちゃんで。どうだ? このあとちょっとだけ・・・」 「黒髪という方について、お聞きしたいのですが」  男性の言葉など一切聞き入れることなくシェリアはきつく尋ねる。  アイリスは横目でそんな態度をとるなんて珍しいな、と感じつつも横槍はいれずに見守る。  すると、男性から笑顔が消え顔を俯かせた。ぶつぶつ、と何かを呟いている。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18459人が本棚に入れています
本棚に追加