彼らの日々はかくありき

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「夏樹、もう少しだ! もう少しだけがんばれ!!」  俺は必死に水面を掻きながら叫んでいた。  しかし、間もなく幼い妹の手のひらは波間に消えてしまう。  何度目だよ。  こんな夢、もう見飽きたっての。  俺は眠いんだ。  過去の罪にうなされて目を覚ますなんて、どんな厨2設定だっての。  もう疲れたんだ。自分を責めるのは。  もう、やめてくれ……。 「いや、ほんと勘弁してください」  俺は布団を頭からかぶり直して、その騒音を遮断しようと懸命に耳元を押さえる。 「はーるーちゃーん、あーそーぼー!!」  しかし祈りも空しく騒音は激しさを増すばかりだった。  俺は諦めて体を起こすと、散乱した空き缶の一つに足を取られそうになりながら玄関のドアまでなんとかたどり着く。  と言っても、ワンルームのバンガローなのだから、いくらも歩かずに即玄関ではある。  俺はため息交じりにドアと壁を連結している簡単な蝶番(ちょうつがい)を外す。  その直後。  ノブに手をかけるより早く、ドアは凄まじい速度で開かれて、そのままいずこへかと千切れ跳んでしまった。 「おはよう、朱音。そして帰れ」 「ご、ごめん春ちゃん……ちょっと力の加減が難しくて……」 「聞き飽きたっての。何度目だよ。いや、何枚目だよ」  歩く暴風雨。異端の女王。それがこの三島朱音だ。  彼女の前に壁は無く、彼女の後にはぺんぺん草も残らない。  これが言い過ぎではないと擁護してくれる人はきっといることだろうと、俺は思う。  事実、俺の家のドアはまた無くなってしまったのだから。 「後で直しとけよ。つか、普段はIF外しとけって何度言えば分かるんだよお前は。岩城さんに見つかったら殺されるぞ」
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