彼らの日々はかくありき

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「ん? そもそも探してませんが?」  朱音はしれっとそう言ってのける。  朱音の親父さんは空手の道場とキックボクシングのジムを経営していて、根っからの格闘バカなわけだが、改変直後からどうにも行方不明のようだった。  そう。俺が自分の家の様子を確認しにいったついでにジムに寄ったときには、親父さんは書置きだけを残して姿を消していた。  『ちょっとお外で遊んできます』とだけ書き残して。  ついでに言えば、彼の奥さん、つまり朱音の母親もとうの昔に愛想を尽かせて出ていったっきり、行方不明だった。 「あ、でもこの前、狩りのついでに服とかを取りに実家に寄ったら、新しい書置きがあったよ」 「へえ、なんて?」 「父さんはもうレベル24だぞ、お前はいくつになった? って」  もっと他に気に掛けるべきことがあるだろう、親父さん。 「まあ、あの親父さんなら、心配するだけ無駄か」 「そゆことです。さて、片付いたよっ! どやぁ」  見渡すと、散乱していたゴミはすっかりビニール袋に詰められており、洗濯物は一か所にまとめられていた。  ゴミと埃で埋め尽くされていたテーブルも、表面の木目が見て取れるくらいには綺麗になっていた。 「一応、礼は言っておくよ」 「えっへへ。良い奥さんでしょ?」 「良い奥さんはドアを引きちぎったりしないけどな」 「あ、はい。ほんとサーセンっした……」 「やれやれ。まあ、今日は暑いからちょうど良い」    7月中旬。  玄武との激闘から約一ヶ月が経過していた。  無くなってしまったドアの向こうでは、朝から蝉が喧しく鳴いている。  あれから俺たちは、連日のように町の人たちの救助に追われていた。  それも近頃はやっと目途が立ったようで、いくらか落ち着き始めたが。  言い換えれば、もうこれ以上の生存者は見込めないと判断されたということだ。
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