バージン・ロスト4

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 それから二人は連れ立って、恭二の家へと歩く。  沿道には田畑ばかりがあったはずだが、どうやら揃って雪に埋もれていた。  ともすれば雲の上を歩いている様で、恭二は亡き妻の姿を辺りに探してしまいそうになる。  新婚のころ、大して金をもっていないくせに見栄を張ってマイホームの購入に踏み切り、こんなド田舎の新興住宅地に家を建てたせいで沙織には不便をかけてしまった。  けれどアイツはそれを億尾にもださずに、「二人でいられればそれでいいよ」といつも笑っていた。  コンビニに行くだけでも歩いて10分以上かかるというのに、沙織はいつも道中を楽しそうにしていて、絶え間なく話をしてくれるおかげで、あっという間に到着した気分だったな。  恭二は町のそこかしこに彼女の面影を見つけて、寒空の下にあっても胸の内だけはほんのりと温かかった。 「ケン兄、俺はちょっとそこのコンビニに寄るから、先に行って、部屋を暖めておいてくれ」  不意に恭二はそういって、少し先を行く健二に家の鍵を投げてよこす。  コンビニに行くと沙織が決まって購入していた駄菓子を仏壇に供えようと思いついたのだ。  健二は「おう」とだけ言って身を震わせると、大きな背を丸めて黙々と歩き始めた。  しばらく歩くと、一応の住宅街と呼べる一帯に着く。  住宅の合間合間に田畑や用途不明の空き地があるせいで、それぞれの家屋が「建っている」というよりも、寒風の中に立たされている、かのように見えなくもない。  ようやく恭二の家を遠目に見つけた健二。  年の瀬ということもあって、周囲の民家に人の気配はない。  きっと皆この町を脱出して、今頃は温かく、賑やかな実家で過ごしているのだろう。  町がこんな有様だから、一人この家で生活をしている恭二がいっそう心配で、いっそう不憫に思えてしまう。  だからこそ健二は、実家の花屋を早々に締めてここに駆け付けた訳だ。  年末年始くらいは実家に戻ってこいと誘ったのだが、恭二はどうにも妻との思い出の残るこの家を離れるきにはなれないらしい。  ちなみに健二は、妻が県外の実家に一人で帰っているので、年始までは恭二の家で過ごすつもりだった。
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