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「確か、あの奥さんの旦那の兄貴だったか? ちょうどいいや、ちょっと帰る金がなくってよ。おら、出せよおっさん」
そういって男は健二の前に進み出ると、うなだれたままの彼の頭を平手で叩く。
「……ゆるせねえ」
「アア!? なにいってんだテメ―――」
言い切る前に、男の体は吹き飛んで、雪の上を転がった。
「恭二が……弟がどれだけ苦しんでいると思っていやがる!! あれだけのことをしでかしておいて、欠片ほども反省してないってのかお前はっ!」
健二は拳をなおさらに握りしめながら、面食らっている男の顔を怒りと悲しみの混ざった瞳で睨み付ける。
だが、どうやらこの男には健二の胸中など微塵も理解できないらしい。
慌てて立ち上がった男はポケットからジャックナイフを取り出して構えている。
「このゴリラオヤジが……。なめやがって―――ぶっ殺してやるよ!!」
男は健二に向かって一直線に走りだす。
だがそのときにはすでに、健二の手には庭掃除のための柄の長い箒が握られていた。
こうなれば当然、男にはなすすべがなく、あっという間に手の甲を打たれてナイフを落としてしまう。
そこへ突きこまれた柄の先端が、男の胃袋を捻じ曲げる。
雪の絨毯に膝をうずめた男は、なにやら恨み言をいっていたようだったが、その声は聞き取れないほどにか細い。
いずれにせよ、このときの健二にはこの男の戯言が耳に入る訳もないのだが。
いっそこのままトドメを刺してやろうかと健二が箒を構えたそのときだった。
「ケン兄、そいつは……!?」
恭二の手からコンビニのビニール袋が零れ落ちて、駄菓子が雪の上に散らかっていた。
健二はハッとして箒を投げ出すと、男を力任せに押さえ込む。
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