バージン・ロスト4

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「もう……死んだのかな?」  そういって、恭二は目を細める。  彼は憑き物でも取れたかのように、いっそ清々しく微笑んでいた。  恭二は正気に戻ってなどいなかった。  いや、沙織を失ったあの日以来、とっくに弟の正気には失われていたのかもしれないと、健二はこのときになってやっと気が付いたのだった。  いずれにせよ、これはどう見積もっても過剰防衛だった。  穴だらけになった男の顔面を見られれば、明確な殺意があったことは隠しようもない。  健二はいっそ泣き出してしまいそうな気持になった。  けれどそれは、血にまみれたこの惨状に対してではなく、弟の行く末を案じてのこと。  これほどまでに深く傷ついていた弟が、これから刑に服さなければならないであろうことが、あまりにも不憫でならなかったのだ。 「キョウ、こいつを納屋に運ぶぞ」  健二が言うと、恭二は首を傾げる。 「ん、警察には言わないのかい?」 「警察に言えば、今度はお前が犯罪者になる」 「おいおい、何を言ってるんだよケン兄。そもそもこいつがナイフで襲ってきたんじゃないのか? こちらは何も悪くないだろう? むしろこんなクズ、殺した方が世間様に喜ばれるはずだ」 「それでもお前が捕まるんだよ! どう見たってこれは過剰防衛だ。いいから、人に見られないうちに早く運ぶぞ!」  健二の焦りが伝わったらしく、恭二はしぶしぶ、男の両足を掴む。  おびただしく飛び散っていた男の鮮血を覆い隠すかのように、舞い散る雪が激しさを増していた。  きっと神様も同情して、隠蔽を手伝ってくれているのだろう。  あるいはいっそ、沙織が恭二を守ろうとしているのかもしれないと思い、健二は空を見上げて胸の内で短く祈った。
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