バージン・ロスト4

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「それから俺たちは、血の付いた雪を掻いて風呂場に流して、男の死体を裏山に埋めた。誰にも見られてなかったはずなのによ……ホント、日本の警察ってのは優秀だな。あっというまにばれちまったよ」  健二はそう言って苦笑いを浮かべると、芝居がかった溜め息をつく。 「そしてお二人は捕まったわけですか」 「ああ。二人そろって長岡刑務所行きだ。収監された棟が別だったから、まともに会話ができたのはつい最近のことだ」 「それで、峰岸恭二さんが私たちの言うことをきいてくれる保証、の話はどうなりました?」 「ああ。そうだったな。―――取り調べの時によ、その強姦魔を殺したのは俺だって言い張ったのさ」 「罪をかぶったわけですか。確かにそれなら、恭二さんは大門さんに返しきれないほどの恩があることになる。でも、それならなぜ恭二さんまで刑務所に?」 「あいつはあいつで、自分が殺したって供述しちまってたんだよ。口裏を合わせろっていっておいたんだがなぁ。多分あいつは、自分は間違ったことなんてしていないって、胸を張りたかったんだろう。んで、動機を考えれば当然、疑わしいのは恭二のほうだ。だからせめて、俺が殺せと命令したってことにしたのさ」 「犯罪教唆……。なるほど、それなら恭二さんの罪はいくらか軽くなる」 「まあ実際、死体遺棄を教唆したのは俺だしな。あながち嘘ってわけでもない。そうだな、そうだよな。今思えば、やっぱり俺も立派な犯罪者ってわけだ」  健二が頭を掻くと、揺れを感じた若葉が膝の上で居心地がわるそうに呻いたので、慌てて手を止める。 「こんな腐ったギルドなんて、二人で抜けちまおうって何度も言い聞かせてたんだがな。あいつは、どうしても古賀を倒してギルドとこの村を救う気らしい。沙織さんを救えなかった罪滅ぼしか何かのつもりなのかねぇ」  健二は若葉の寝顔を優しげに見つめながら、囁くように言う。 「どんなことでもいいから、恩返しができることがあったら言ってくれってさ」 「……大体は把握しました。交渉する価値はありそうですね」  細山田はあくまでも事務的にそう返す。  詐欺師たるもの、これくらいのことで感情移入をしてしまっていては立ち行かない。  それに、自分のような薄汚れた人間が詮索して良いような話じゃあないと、彼は弁える。
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