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その夜はひどく穏やかで、トーイズの村を取り巻く事件の数々が夢であったかのようにさえ思えた。
クロたちもまた、恭二の庇護の元で安寧に身をゆだねていた。
一方、ALL FOR ONEの地下牢獄では―――。
「まゆさん、まゆさん……!」
土の地面に力なく横たわる女を、男女いりまじった幼い子供たちが取り囲んで心配そうに見守っていた。
女の着ている洋服は泥と血が入り混じった赤黒い染みで汚れきっていた。
「私のせいで、ごめんね、ごめんね……」
十歳をやっと過ぎたであろうかとういう少女がことさらに涙を流しながら女の傷ついた手の平を撫でる。
女の指先の爪のほとんど剥がされており、むき出しになったその肉からはじわじわと血液が染み出していた。
「大丈夫。これくらいあとでポーションを使えばあったという間に治るから」
女はそう言いながらよろよろと身を起こすと、はれ上がった頬を無理やりに緩ませて微笑む。
彼女の名は風町真由美。
風町美砂の母であり、恵美の姉にあたる。
彼女たちが牢に閉じ込められてからというもの、盗賊団の男たちが列を成してそれに群がり、女を慰み者にすべく引っ張りだしていった。
美しい者から順番に連れて行かれ、残されたのは器量の悪い者や年老いた者、そして年端のいかない子供たち。
余りものの中からどれを選んだものかと下っ端の男たちの数名が唸っていたのだが、とうとう幼い少女を連れて行かんと手を伸ばしたものだから、真由美がそれに喰ってかかったのだった。
こんな幼い子供を汚す気なのかと真由美が侮蔑を込めて言うと、男どもはそれに逆上して真由美を連れ出し、散々に痛めつけた。
そのあとでバツが悪くなったのか、真由美を牢に戻す際に「ガキなんぞに興味はねえ」と吐き捨てて去って行った。
札付きの悪党とはいえ、そういう連中に限って面子にこだわるものだ。
ランドセルを背負っていたような子供を抱こうとしたことを叱責されて、ちっぽけなそのプライドが大いに傷ついたのだろう。
その怒りは真由美の身に降り注いだが、結果的に子供たちは助かった。
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