1446人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやあ、まさかこんなところでお母さんに会えるなんて。あっ!ということは美砂ちゃんもここに来ているんですか!?」
美砂がここにいたら、などと考えるだけでもゾッとしてしまう。
「いるわけがないでしょう。貴方、まだ飽きたらずにこんなことをしているの?」
前身の震えを押し殺しながら真由美が応える。
「いやいや。そうですかぁ、残念です。ああ、会いたいなあ美砂ちゃん。まだ僕のことを好きでいてくれているのかなぁ」
うっとりと宙を眺めている藤原。
どうやら説教の部分だけが藤原には聞こえていないらしい。
まるで美砂と恋人同士であったかのような口ぶりに、真由美はこれ以上ないほどの嫌悪感を覚える。
頭がおかしい。
知っていたことではあるが、この男の精神異常は極まっているらしい。
「っと、そうだ。おい、こんなところにお母さんを押し込めたのは誰だ?」
藤原がそう言って突然に牢番の男を睨むと、男は縮み上がって口ごもる。
息がかかりそうなほどに顔を近づけてなおも睨みながら、牢番の首を鷲掴みにしてその手に力を込め始める藤原。
その体が宙に浮き、意識が途絶えかけたころには、牢番の体は投げ飛ばされて壁に張り付いていた。
そして、いつの間にか牢番の腰から奪い取っていた鍵の束を使って、牢を開けてしまう。
「ささ、お母さん、どうぞこちらへ。上でお茶でもお出ししましょう」
藤原が牢の入り口で手招くと、辺りの女子供がざわめき始める。
「まゆさん、僕たちも出られるの?」
少年の一人が真由美にそう問いかけた瞬間だった。
いつの間にか牢の中へ入ってきていた藤原が、少年の頬を打ち払う。
小さなその体はゴムボールのように跳ねて、ごつごつとした岩肌に叩き付けられた後で力なく落下した。
最初のコメントを投稿しよう!