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「さあどうぞ」
藤原は涼やかに微笑むと、真由美を招き入れて、テーブルに着く。
真由美がその向かいに腰を掛けると、間もなくに給仕係の若い女がやってきて紅茶とバスケットいっぱいに詰められた洋菓子を持ってくる。
部屋の中はそこらのファミリーレストランよりもよほど広く、天井はちょっとした球技ができそうなくらいには高い。
そして、その寒々しさを和らげるべく、モダンアートの彫像や骨董品が節操無くちりばめられている。
まるで品が無い。
品が無くて、よく似合っている。
真由美は心の中でぽつりと呟く。
一方の藤原は紅茶を少し口に含んでから手を組んで、ご機嫌な笑顔を真由美に向けている。
真由美はその煩わしい視線をやり過ごすべく、しばらくは俯きがちにティースプーンの細工を眺めていたが、しびれを切らしたらしい藤原が先に口を開く。
「ねえ、お母さん、美砂さんはどんなお菓子が好きですかねぇ」
藤原はバスケットに詰まった洋菓子を適当に指さしながら言う。
当然、真由美はその質問に答える気にはなれない。
命よりも大切な家族を傷つけ、たった先ほどに幼気な孤児までも傷つけたこの藤原という犯罪者には恨み言ですら勿体が無い。
けれど今はなんとかして有益な情報を引き出すべく、真由美は笑顔を顔に貼り付ける。
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