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「けれど、希望の村から脱出した少女がいたはずよ。あなたたちの悪行はもう他の村に知れ渡ってるころじゃあないかしら。だとすれば、今に征伐部隊が編制されるはずよ。もう逃げたほうが良いと思うわ」
これはカマだ。
まだ盗賊団とトーイズの繋がりが露呈しているとは限らない。
一方の藤原は珍しくも難しそうな顔をして考え込んでいた。
だが間もなく返ってきたのは度し難い回答であった。
「ええ、そうですね。希望の村の襲撃が僕たちの仕業だってことは方々に知れ渡っているころでしょう。事実、今日の昼間に村で暴れていた女性がそのようなことを口にしていたと、部下から報告を受けています。征伐隊、ですか。まあ、来るでしょうね。この村の利権と蓄えを狙って、正義の名のもとに」
村で暴れていた女性というのは恵美のことだったが、もちろん、真由美には知る由もない。
藤原は恐らく、カマをかけられたことを知りながらも、敢えてそれに乗ったのだと真由美は感じ取っていた。
しかし、ならばなぜ盗賊たちは呑気に女たちを貪っているのか、そう口を開こうとするが、藤原は続けざまに言い放つ。
「戦争。それが僕の望みです。そしてそれに勝って、僕はすべてを手に入れる。近隣の村の全て、いや、日本中、世界中が僕の物になるんです」
この男の頭がおかしくなっていることは重々承知していたはずであった真由美も、さすがにこれには言葉を失いそうになる。
「勝てると思うの? たったあれだけの野党の集まりで」
「野党の集まり、ですか。本当にそのとおりですねぇ。なんの志も持たないヘタレの集団です。でも、だからこそ僕は現状を部下には伝えていない。あんなクズたちでも、ことが起こって逃げ場を失えば、嫌でも戦うでしょうからね。―――それに、なにも戦うのはギルメンだけじゃあない」
真由美がどういう意味だという視線を向けると、藤原は笑みを浮かべて見せた。
「この村の住民の全てが僕の兵隊なんですよ。彼らはすっかり僕たちを信用しきっています。有事には侵略者を成敗すべく、献身的に戦ってくれることでしょう。それこそ、正義の名のもとに」
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