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このとき初めて、平静を装っていた真由美の顔色が変わった。
藤原はトーイズの住民を、己の野心のための生贄にするつもりなのだ。
本来ならば、素性が知れればこんな男に従う者など誰一人としているはずもないのだが、実際のところ、トーイズの住民はそうとは知らずにALL FOR ONEに依存している。
正確には、ALL FOR ONE全体というよりも黄金騎士団に対する評価が極めて高いわけだが。
ともあれ、トーイズの村の発展は著しく、誰もがギルドの手腕を称え、この村の住人であることに一種の優越感を感じている現状を思えば当然、藤原のいうことが狂言とは思えなかった。
「けれど、もう全ては露呈しているのに、トーイズの人たちがあなたの味方をするかしら」
「ふふ。住民たちには具体的な情報を何一つ持っていません。それに、盗賊団を指揮していたのはトーイズの隣村。そういうことになっているんですよ。見事に盗賊団を討伐したALL FOR ONEはその悪事に気付いてしまった! 首謀者たちは口封じのために、他の村々までも懐柔してトーイズに攻め入ってしまおうと企んでいるらしい! ……今夜あたり、酒場ではそんな噂話が聴けることでしょうね」
盗人猛々しいとはまさにこのことだろう。
真由美はそう言いかけたが、藤原を刺激してもなんの得もありはしないと言葉を飲み込む。
いずれにせよ、戦争は避けられそうにない。
頭の中の整理が間に合わずにいた真由美だったが、藤原が続けざまに語り始めたため、慌てて耳を傾ける。
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