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藤原はうっとりとして天を仰ぐ。
一方の真由美はこの不運を受け入れることができず、ただただ写真に写る娘と妹の顔を眺めていた。
このとき、真由美は直感的に悟ってしまっていた。
きっと美砂は自分のことを迎えに来てくれたのだと。
痛いほどに胸を締め付ける喜びと共に崖の前で立ち尽くしている様な、矛盾に満ちた感情が真由美の中で溶け合い、渦巻いていた。
「さあ!僕はさっそく彼女を迎えに行くとしましょう! ああっ……、でもまずは身なりを整えなきゃだ。すみません、僕はこれから忙しくなりますので、お母さんはここで待っていてください」
止めなければ。
必死で頭を巡らす真由美だったが、混乱している今の状態では、およそその手段が浮かばない。
「っと、その前に、お母さんはこれを使ってまずは傷の手当を」
藤原はIFを弄ってポーションを取り出すと、バスケットの側にそれを置いた。
「気が利かなくてすみません。そんな傷、美砂ちゃんが見たらびっくりしちゃいますからね。ああ、そうそう。お母さんを痛めつけた男は殺しておきましたので、ご安心ください。それでは、美砂ちゃんが戻ってきましたら改めて3人でお茶をしましょう」
そう言い残して藤原が去ると、代わりに世話係の若い女が部屋に入ってくる。
「大丈夫、ですか?」
女は真由美のただならぬ顔色を気遣って、そっと肩に触れた。
「一つ、お願いしてもいいかしら」
「ええ、なんなりと」
「そこのポーションを、地下牢で重傷を負っている男の子に使ってあげてほしいの」
「いけません、貴女の怪我が治っていなければお世話係の私たちがどんな目に合されるか……」
そう言って女はたいそう怯えてみせる。
すると真由美はポーションの栓を引き抜き、爪をはがされた指先などの特に目立つ箇所にそれを零す。
そして半分ほどを残したまま再び栓をし、女に手渡した。
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