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「これならいいでしょう? どうかお願いします」
女はしばらく手元のそれを眺めていたが、やがて意を決したように服の胸元にそれをねじ込む。
「きっと」
それだけ言うと、女はテーブルの上のティーカップを盆に乗せて部屋を後にした。
真由美は一人になると、何か脱出の糸口になるようなものがないものかと部屋の中を見渡す。
「美砂、ありがと。お母さんが絶対に助けるから、貴女もあきらめないでね」
愛する者を失った悲しみに耐えられずに一度は逃げ出した真由美。
今度は最愛の娘まで失うのだろうかと思うと体が芯から震え始める。
降りかかる不幸の全てが運命じみていて、抗えるものではない気すらする。
それでも彼女は祈りはしない。
その瞳には雫の一かけらも無く、ただ煌々と燃えているようだった。
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