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六階へ下りる途中の踊り場のベンチでは、子供たちがポータブルタイプのゲームをしていた。
「お、楽しそう。……今ではもう家でゲームをする時代じゃなくなってきてるのかなぁ」
その子供たちを見ながら階段を下りていると、瞬間、足の接地感が無くなった。
「あ、やば! うわぁ!」
踏み外したのに気づいた時は既に遅く、そのまま瑞穂の体は踊り場まで転げ落ちた。
「痛ったー。お腹打っちゃったみたい。……って、あれ!」
瑞穂は目を開けると、そこには奇妙な光景が広がっていた。先ほどまで明るく賑わっていた店内は、一瞬にして真っ暗で誰も居なくなってしまっていた。
「……うそ、何で? 閉店時間? 誰か、いませんかー?」
瑞穂の声が不気味に反響すると、そのまま暗闇に呑みこまれていった。誰もいそうにないので、そのまま階段を下り五階を目指す事にした。
「まったく、私が倒れてる事に誰も気付かなかったのかな? て、あ、あれ!? 扉閉まってるじゃん。うそー!」
五階への階段を下りる途中、踊り場からフロアの方を見下ろすと、防火扉が閉じていているのが見えた。
「ってことはエレベーターからじゃないと無理じゃん。めんどくさいなー」
防火扉を恨むように睨みつけ、階段を上り六階へと戻った。エレベーターを目指し歩いていると、どこからか声が聞こえた。
--先生、どうかお願いします。
「え、誰? 誰かいるんですかー?」
瑞穂はその声の方へ行き色んな場所を捜してみたが、人がいるどころか気配すらしなかった。
「まさか幻聴? あまりの静けさに耳がおかしくなっちゃったのかな。早くここから出なきゃ……」
人捜しを諦めて、エレベーターを目指す。歩き始めてすぐ、また人の気配を感じた。そちらに目をやると、そこには小学一、二年生くらいの女の子が立ちすくんでいた。
「あ、あなた何してるの? お母さんは? お父さんと来たのかな?」
瑞穂が何を聞いても、女の子は口を開かない。それどころか、どこか遠くを見つめたまま全く反応しない。
「……この子、どこかで見た事ある。近所の子だったかなあ? 思い出せないけど、絶対に見た事ある。
それにしても困ったな。ここに置いて行くわけにもいかないし。うーん……ねえちょっと」
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