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私が母親にいつも忘れた頃に殴られていた事を、こうして梨絵が、口に出すのは初めてだったので、戸惑った。
「あんた、それでもお母さん、好きだったでしょ? 母の日の作文とか、お母さんのいい所、必死で寄せ集めて書いてた。一生懸命、自分の幸せの端っこを探してた。だから、高校中退するとき、男と同棲するって言った時、ホントは止めたかったんだよ」
「どうして?」
「ルリは彼氏の悪い所を見ないようにするんじゃないかって思ってたから。下手すると男に風俗に売られたりしないかって、心配してた」
「そんなこと……」
ない。そこまで男にいいようにされるのを自分で止められないはず、ない。それに私、お母さんのこと好きだったわけじゃない。でも怖かったわけでもない。ただ、悲しかった。彼女の不幸の発端が自分にあるような気がして、とても悲しかった。
「ルリの彼氏は殴らないかもしれないけど、なんかそれよりも酷い気がするよ」
「梨絵、克也さんのこと今までで一番まともだっていったじゃない」
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